流量、温度、圧力などの調整を行うために、いろいろな自動制御パターンがありますが、その中で最もよく使われているものにPID制御があります。
普段聞きなれない言葉で、どうしても制御の話の中でも理解できない分野なので、苦手意識を持っている方も多いかと思います。
今回は、プラントの自動化に欠かすことのできないPID制御について解説したいと思います。
1. PID制御とは?
PID制御は、主に調節計を用いた自動制御を行う際に使用される制御方法です。
PID制御を使えば、水を一定の温度に加熱する、油を一定量流し続けるなどの制御を自動で行うことができます。自動制御の技術がなかった時は、この操作を手動のバルブ調整で行っていたので人手がかかっていたわけですね。
よく比較される制御方法として、オンオフ制御があります。
例えば、蒸気で水を加熱する場合、オンオフ制御だと、設定値に対して水の温度が低い場合は蒸気を通気させる。水の温度が高くなると蒸気の通気をやめるというオンかオフの操作のみで制御を行います。
イメージとして精度をあまり気にしない場合はオンオフ制御、ある程度の精度を求めるときはPID制御といったように使い分けを行います。
PID制御の「PID」とはそれぞれ次の単語の頭文字を取ったものです。
- P:Proportional(比例)
- I:Integral(積分)
- D:Differential(微分)
全て合わせたものをPID制御といいますが、それぞれの組み合わせでPI制御やPD制御を行う場合もあります。
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2. PIDそれぞれはどんな動き?
PID制御の目的は、温度、圧力、流量などを設定値と同じ一定の値にすることです。
そのために、設定値と測定値の差(偏差)を計算し、制御弁などの動き(操作量)を調整します。測定値、設定値、操作量をそれぞれ専門用語で次のように呼びます。
- PV:Process Variable(現在値)
- SV:Setting Value(設定値)
- MV:Manipulated Variable(操作量)
PV(現在値)をSV(設定値)に近づけるようにMV(操作量)を自動調整するのがPID制御です。
この調整をうまく行うために、P動作、I動作、D動作という3つの動作があり、それぞれにパラメーター(数値)を与えてやることによって制御を行うことができます。
P、I、Dそれぞれの動作について見ていきたいと思います。
2-1. P(比例)動作
P動作は、設定値と現在値との偏差に比例して操作量を変化させる動作です。
Pに入力する数値は比例帯を表し、単位は%になります。
蒸気で水を加熱する場合を考えてみましょう。
Pを小さくすると偏差に対して、加熱するスピードが速くなりますが、温度が上がりすぎたり(オーバーシュート)、温度が振れたり(ハンチング)します。逆にPを大きくすると、加熱するスピードが遅くなり、オーバーシュートは防止できますが、その分立ち上げの時間が長くなります。
2-2. I(積分)動作
I動作はP動作だけでは必ず残ってしまう残留偏差(オフセット)をなくすための動作です。
P動作のみで制御を行うと、設定値と少しずれたところで制御が安定してしまいます。これを残留偏差(オフセット)といいます。
Iに入力する数値は時間で単位は秒(s)になります。
Iを小さくすると、オフセットを修正する動きは早くなりますが、ハンチングが起こりやすくなります。逆にIを大きくすると、オフセットを修正する動きが遅くなりますが、ハンチングは起こしにくくなります。
2-3. D(微分)動作
D動作は外乱によって、現在値に大きな変化が生じた際に、その変化量に応じて修正する動作のことをいいます。
Dに入力する数値も、Iと同じで時間になります。単位は秒(s)です。
例えば、水の加熱で言うと、PI制御によって一定の温度で安定しているところに大量の冷たい水(外乱)が入ってきたとします。そうすると、水の温度が急激に下がります。
この時、D動作がこの変化の傾きを検知して、すぐに修正する動作をするよう信号を出します。P動作だけでは、外乱を修正するのに時間がかかるので、時間を短縮するためにD動作があるというイメージです。
Dが大きいとD動作が大きく入り、オーバーシュートやハンチングが発生します。逆にDが小さいと、オーバーシュートやハンチングは抑えられますが、外乱を抑制する動作が小さくなります。
3. PIDの調整方法
PIDにはそれぞれの動作に特徴があり、これが正しい値というものがありません。PIDを調整するためには、その時の使用方法から最適な数値を探さなけれいけません。
実際には、一つの基準を決めてから自動制御を行う。元に戻して、数値を少し変更させてから再び制御をかけるという方法を繰り返します。ある程度は経験がものをいう世界ですね。
PIDに関しては次の動画がとても分かりやすいので、お時間のある方はどうぞ。
4. まとめ
この記事のポイント
- PID制御は最も使われている自動制御の一つ
- P(比例)動作、I(積分)動作、D(微分)動作の3つに分かれる
- PIDの調整はその場で試行錯誤で行う
PID制御について、ご理解いただけたでしょうか?
制御の世界は調べれば奥が深いですね。ただ、数式は理解できてなくても概念がわかればなんとかなると思います。良く分からなくなったら、各制御の目的を考えてみましょう。