冷却塔(クーリングタワー)では循環水を気化させることで温度を下げるため、補給水中の不純物は何もしなければどんどん濃縮していくことになります。
これを防ぐために一定量をブローして補給水と入れ替える必要がありますが、どの程度ブローしないといけないかは濃縮倍数によって決まります。
プラントを設計する場合には冷却塔での濃縮倍数は使用する水量に大きく影響を与えるので注意が必要です。今回は、冷却塔の濃縮倍数について解説したいと思います。
濃縮倍数とは
濃縮倍数とは、冷却塔に補給する水に対し、どれだけ濃縮させることを想定して管理するかを示す指標です。
冷却塔の概略フローを見ながら解説をします。
- 冷却水がポンプによって循環され、熱源の熱を奪う。
- 昇温した冷却水はファンによって一部気化され、温度が下がる。
- 気化した分、水槽の水位制御で補給水が供給される。
- 気化することで冷却水中の不純物が濃縮していくので一部を捨てる(ブロー)。
- ブローした分は補給水が供給されて水位が一定になる。
この時、冷却水中の不純物がどの程度濃縮すればブローを行うのかを示す指標が濃縮倍数です。例えば補給水中に管理対象の不純物が10mg/L入っており、循環水の管理値を30mg/Lにする場合は濃縮倍数は3ということになります。
濃縮倍数は冷却塔に補給する水の水質によって左右され、濃縮倍数が低ければ低いほど必要なブロー水量も増加し、多くの水が必要になります。
- 水質が悪い⇒濃縮倍数は低くなる⇒多くの水が必要
- 水質が良い⇒濃縮倍数は高くなる⇒水は少量で済む
大型のプラントや工場では冷却塔に毎時何十トンもの水を冷却水に供給する場合もあり、薬剤も多量に投入されるため、濃縮倍数はランニングコストに大きく影響を与えます。
【ボイラー】ボイラー水の水処理とは?しないとどうなる?
続きを見る
濃縮倍数の決め方
濃縮倍数は冷却塔メーカーの持つ基準値と補給水の水質分析結果をもとにメーカーから提示されます。
例えば、水の不純物成分としてカルシウム、シリカ、鉄分、塩化物などがありますが、これらを一つ一つ見比べて最も条件の悪いところで合わせます。次のような条件の場合、濃縮倍数は3倍になります。
- カルシウム:5倍
- シリカ:8倍
- 鉄分:3倍
⇒鉄分の3倍に合わせ、濃縮倍数は3倍
濃縮倍数を決める目的は、不純物が濃縮するとスケール、腐食、スライム発生の原因になり機器の寿命や能力を低下させる要因になるからです。
どの成分がどれだけ悪影響を与えるのか、どの管理値を重要視するのかは冷却塔メーカーに水質分析結果を送り、決めてもらうのが一般的です。
⇒ 冷却水・冷水・温水・補給水の水質基準値(外部リンク)
濃縮倍数を上げるにはろ過装置などで前処理をして、冷却塔に送る水をきれいにするのが有効です。ただ、その分水処理費用も上がるので、どこまでを許容できるのかはコストと見比べながら判断する必要があります。
【ボイラー】スケールとスラッジの違いとは?
続きを見る
濃縮倍数と補給水量の計算方法
濃縮倍数を用いて冷却塔に必要な補給水量を計算してみます。それぞれの値を次のように置きます。
- 蒸発量:E [kg/h]
- 水滴(飛散量):W [kg/h]
- 濃縮倍数:N
- ブロー量:B [kg/h]
- 補給水量:M [kg/h]
それぞれを計算していきます。
冷却熱量から蒸発量を計算
まず、冷却塔でどの程度蒸発するのかは、冷却熱量から計算することが出来ます。
冷却水の入出温度差をΔT、水の定圧比熱をcp、循環水量をL、水の蒸発潜熱をrとすると次の式で表すことが出来ます。
$$E=\frac{L×c_p×ΔT}{r}$$
循環水量や水の入出の温度は冷却塔の仕様によって決まります。蒸発潜熱は蒸気表を確認すれば分かります。
循環水量から飛散量を計算
次に循環水量から、一部水滴として外部に放出される飛散量を計算します。
飛散量も冷却塔の方式や仕様によって変わりますが、一般的には0.05%~0.2%程度です。仮に0.05%と仮定すると次の式で表すことが出来ます。
$$W=L×\frac{0.05}{100}$$
濃縮倍数から必要ブロー量を計算
最後に濃縮倍数から必要ブロー量を計算します。ブロー量は次の式で表すことが出来ます。
$$B=\frac{E}{N-1}-W$$
濃縮倍数Nは補給水の水質によって固定されるので、これですべての未知数が計算できたことになります。
後はこれらを足し合わせると、必要な補給水量は次の式で表せます。
$$M=E+B+W$$
濃縮倍数を低くすればするほど必要な補給水量が増えていくというのが式からも分かりますね。
まとめ
- 濃縮倍数は冷却塔に補給する水に対し、どれだけ濃縮させることを想定して管理するかを示す指標。
- 水質が悪いと必要な補給水量が増える。
- 蒸発量、飛散量、ブロー量を計算すれば補給水量を計算できる。
プラントを建設するときに決めてしまう値のため、普段はあまり意識することのない指標ですが、冷却塔のランニングコストを知るには参考になります。
是非、冷却塔を見たときに濃縮倍数がどの程度で運転されているのか確認してみてはいかがでしょうか?