ディーゼルサイクルはディーゼルエンジンなどに利用される熱サイクルでオットーサイクルと同様に燃料の熱エネルギーをピストン運動に変換します。
この記事ではディーゼルサイクルとはどのようなサイクルなのか、オットーサイクルとは何が違うのか、また効率を高めるためには何がポイントなのかについて解説していきたいと思います。
ディーゼルサイクルとは?
ディーゼルサイクルはドイツのルドルフ・クリスチアン・カール・ディーゼルにちなんで名前が付けられた熱サイクルで低速ディーゼル機関の理論サイクルです。オットーサイクルの定容加熱過程を定圧加熱に変えたサイクルになります。
オットーサイクルでは断熱圧縮した後に火花点火装置によって爆発させますが、ディーゼルサイクルの場合は火花点火装置を使用せず、断熱圧縮して約600℃の高温になったところに燃料を吹き込んで燃焼させます。この時の燃焼が燃料をゆっくり吹き込みながら行うため、定圧加熱と考えます。
火花によって一瞬で燃焼させれば体積一定の定容加熱、ゆっくり燃焼させれば圧力一定の定圧加熱ということになります。
ディーゼルサイクルの基本サイクル
ディーゼルサイクルの基本は次の6つの工程で表すことができます。
- 吸気:空気を吸入する
- 断熱圧縮:空気を圧縮する
- 等圧受熱:徐々に燃焼する
- 断熱膨張:膨張する
- 等容放熱:放熱する
- 排気:高温ガスを外に出す
吸気
ディーゼルサイクルでは、ピストンがシリンダーの下部に移動する際に外気が吸い込まれます。
このプロセスでは、空気のみが吸入され、燃料は注入されません。空気は大気圧に依存してエンジンのシリンダーに流入し、フィルターを通過して不純物が除去されます。ここでは、後続の圧縮と燃焼に必要な酸素が供給されます。
断熱圧縮
吸気された空気はピストンが上昇するにつれて圧縮されます。この段階での圧縮は非常に高い圧力に達し、同時に空気の温度も上昇します。
この温度上昇は、ディーゼルサイクルにおいて非常に重要であり、燃料の自己着火に必要な温度まで昇温させます。断熱圧縮とは、このプロセスで熱が外部に放出されずに空気の内部エネルギーとして蓄積されることを意味します。
等圧受熱
ピストンが圧縮上死点に達すると、燃料がノズルから微細な霧状に噴射され、圧縮された高温の空気によって瞬時に自己着火します。
燃焼が開始されると、圧力は一定に保たれるよう制御されながら燃料のエネルギーが高温のガスとして解放されます。この高温ガスがピストンを押し下げる力となり、エンジンの主な出力源となります。
断熱膨張
燃料の燃焼によって生じた高温・高圧のガスは、ピストンを下降させながらエンジン内で膨張します。
このプロセスも断熱的に行われ、熱が外部に放出されることなく、ガスの内部エネルギーがピストンを動かす仕事に変換されます。このエネルギー変換がエンジンの動力となり、車両を動かすための力を生み出します。
等容放熱
ピストンが最下点に到達すると、燃焼ガスからのエネルギーが使い果たされます。
この時点で、排気バルブが閉じられた状態でガスの温度と圧力が低下します。この過程は容積が変化せずに行われるため、「等容放熱」と呼ばれます。ガスの冷却は、排気プロセスの効率を高め、排気サイクルへの影響を減少させます。
排気
最後に、排気バルブが開き、使用済みのガスが外へと排出されます。
ピストンが再度上昇することで、シリンダー内の燃焼ガスが強制的に押し出され、エンジンは新たな吸気サイクルの準備が整います。
ディーゼルサイクルとオットーサイクルの違いは等圧受熱の箇所だけです。ディーゼルサイクルを用いたディーゼルエンジンとオットーサイクルを用いたガソリンエンジンの動きを比較する動画があるのでこちらもご覧ください。
火花で点火しているのではなく、圧縮して高温になったところで燃料を噴霧することで自然と発火していることが分かります。ピストン運動を回転運動に変換する機構も分かりやすく解説されています。
こちらの動画では、ガソリンと軽油とい燃料の違いまで解説されています。
ディーゼルサイクルのP-v線図、T-s線図
ディーゼルサイクルのP-v線図とT-s線図は次のようになります。
P-v線図
ディーゼルサイクルのP-v線図とT-s線図は次のようになります。オットーサイクルとの比較で選ぶことがあるのでこちらもしっかりと意味を理解しておきましょう。
P-v線図の場合は、1で吸気して1⇒2で圧縮されて圧力が上昇します。2⇒3で徐々に等圧のまま燃焼して、3⇒4で膨張することで圧力が下がります。そして最後に4⇒1で排気されて元の状態に戻ります。
この時、2⇒3で燃焼時に発生したQ1の熱量から最終的に排気で捨てられるQ2を引いたものが動力に変換されたと考えます。実際には機械的な損失がありますが、熱サイクルではあくまで理想的な状態を考えます。
T-s線図
T-s線図ではオットーサイクルと同様に、断熱膨張と断熱圧縮の際に外部との熱のやり取りがないのでエントロピーが変化しないというところがポイントです。圧縮されると分子の動きが早くなるので、それがすべて熱エネルギーに変換されるというイメージです。
圧縮と膨張の2種類の等エントロピー変化があることを覚えておきましょう。
ディーゼルサイクルの線図について各工程ごとにイメージが湧きやすいアニメーションを作成したのでこちらも合わせてご覧ください。
ディーゼルサイクルの熱効率
ディーゼルサイクルの熱効率について考えてみます。導出の仕方はオットーサイクルと同様になります。
$$η=1-\frac{Q2}{Q1}$$・・・①
$$Q1=mcp(T3-T2)$$・・・②
$$Q2=mcv(T4-T1)$$・・・③
②③を①の式に代入すると
$$η=1-\frac{T4-T1}{κ(T3-T2)}$$
V3/V2を締切比ρ、V1/V2を圧縮比εとすると最終的な式は次のようになります。
$$η=1-\frac{1}{ε^{κ-1}}\frac{ρ^κ-1}{κ(ρ-1)}$$
このことから、ディーゼルサイクルについては圧縮比を大きくすれば熱効率が上がるということと締切比を小さくすれば熱効率が上がるということが分かります。
締切比を1にするとオットーサイクルと同様になることから、ディーゼルサイクルは圧縮比の同じオットーサイクルと比べると熱効率が悪いことになります。ただし、実際には圧縮比を3倍程度大きく取ることができるのでオットーサイクルよりディーゼルサイクルのほうが熱効率は高くなります。
ディーゼルサイクルの平均有効圧力
レシプロエンジンの能力を表す一つ指標として「平均有効圧力」があります。
平均有効圧力は、1サイクル中で変化するシリンダー内の圧力を一定だと仮定した値を表すことで、排気量に関係なくエンジンの評価をすることが出来ます。オットーサイクルと同様にこちらも計算してみましょう。
ディーゼルサイクルの平均有効圧力は次の式で表すことが出来ます。
$$P_m=\frac{W}{V_s}$$
Pm:平均有効圧力、W:仕事、Vs:工程体積
これらに変換したものを代入していきます。
$$P_m=\frac{Q_1-Q_2}{V_1-V_2}$$
$$=\frac{m[c_p(T_3-T_2)-c_v(T_4-T_1)]}{V_1-V_2}$$
$$=\frac{mc_v[κ(T_1ε^{κ-1}ρ-T_1ε^{κ-1})-(T_1ρ^κ-T_1)]}{V_1(1-\frac{1}{ε})}$$
$$=\frac{mRT_1}{V_1}\frac{κε^{κ-1}(ρ-1)-(ρ^κ-1)}{(κ-1)(1-\frac{1}{ε})}$$
$$=P1\frac{ε^κκ(ρ-1)-ε(ρ^κ-1)}{(κ-1)(ε-1)}$$
ディーゼルサイクルとサバテサイクルの違いは?
ディーゼルサイクルとよく比較されるサイクルにオットーサイクルやサバテサイクルがあります。
サバテサイクルはオットーサイクルとディーゼルサイクルを組み合わせたサイクルで、複合サイクルとも呼ばれます。乗用車のディーゼルエンジンはサバテサイクルに分類されます。
サバテサイクルはオットーサイクルの等容受熱の過程を「等容受熱+等圧受熱」の過程に置き換えらサイクルでP-v線図は次のようになります。
(引用:Weblio「サバテサイクル」)
それぞれの燃焼サイクルを比べると次のようになります。
- オットーサイクル:燃焼は瞬間的に行われるので容積変化はなく一瞬で圧力が上昇する(定容変化)。
- ディーゼルサイクル:燃焼室内で自然発火が起き圧力変化がないまま燃焼し膨脹する(定圧変化)。
- サバテサイクル:燃焼が本来のディーゼルエンジンより高速に行われるため「定容変化」と「定圧変化」の2つの過程をたどる。
実際のディーゼルエンジンでは燃料噴射後の着火までに着火遅れがあるため、その間に燃料と空気の混合気が形成されます。これに着火して定容変化が起きた後、噴射される燃料が空気と混合しつつ順次燃焼を続ける等圧変化が発生します。
低速機関でなければこの過程を無視できないので、定容変化と定圧変化を組み合わせたサバテサイクルが生まれたというわけです。
まとめ
- ディーゼルサイクルはディーゼルエンジンの理想的な熱サイクル
- 2つの断熱変化と1つの等圧変化から成り立つ
- 圧縮比を大きく、締切比を小さくすれば熱効率が上がる
- サバテサイクルとは燃焼過程が違う。
ディーゼルサイクルとオットーサイクルは非常に似ているので、間違えないように注意しましょう。
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