トヨタ自動車が次世代自動車として他メーカーに先駆けて水素を燃料とする自動車「MIRAI」を発売しました。たまに街を走っているのを見るとつい凝視してしまいます。
「MIRAI」は水素を使った燃料電池でモーターを回して走る電気自動車でエンジンなどの内燃機関を利用するわけではありません。
水素は、燃焼後に水しか出さない燃料として地球温暖化防止策の一つとして重要視されています。
今回は、化石燃料の代わりに水素を利用すれば本当に地球温暖化は防止できるのか?そもそも水素はどうやって作られるのかについてエネルギーの観点から記事を書いてみたいと思います。
1. 水素と地球温暖化の関係
そもそも水素と地球温暖化にはどのような関係があるのでしょうか?
地球温暖化は、炭素を多く含む化石燃料を燃焼させてエネルギーに変える際に発生するCO2が太陽から降り注ぐ放射エネルギーを吸収することで地表面近くの温度が上昇することを言います。
地表の温度が上昇すると、新型の病が流行ったり、海水が膨張して水面が上昇したり、北極の氷が解けるなどの様々な悪影響があると言われています。
つまり、エネルギーを得る手段として炭素を多く含む燃料を利用せず、CO2が発生しなければ地球温鈍化は防止できるということになります。
そこで、現在着目されいているのが水素による燃料補完です。水素を燃焼させてエネルギーを得る場合、次の式から燃焼後には水(水蒸気)しか残らないということが分かります。
$$H2+\frac{1}{2}O2=H2O$$
低位発熱量の観点から化石燃料と水素を比べてみると次のようになります。
- 水素・・・121.0 MJ/kg
- ガソリン・・・44.4 MJ/kg
- メタン(都市ガス)・・・50.0 MJ/kg
- プロパン・・・46.3 MJ/kg
質量当たりの発熱量はガソリンの約2.7倍と非常に大きいことが分かります。1mol(標準状態で22.4L)当たりの発熱量を比較してみると水素は1mol=2g、メタンは1mol=16g、プロパンは1mol=44gなのでそれぞれを比較すると次のようになります。
- 水素・・・242 kJ/mol
- メタン・・・800 kJ/mol
- プロパン・・・2037 kJ/mol
つまり、同じ体積当たりで比較すると水素の発熱量はメタンやプロパンなどの化石燃料に比べて著しく小さくなります。つまり、化石燃料と同じエネルギーを得ようと思うと高圧で圧縮しなければ同容量の貯蔵庫に同等のエネルギーを補完することは不可能ということになります。
この2つの観点から、水素は燃えやすく質量当たりのエネルギーも大きいので燃料としては優秀だが使用するためには高圧で保存する技術が必要ということになります。
保存の技術さえ確立すれば利用出来そうな水素ですが、水素が広まると本当に地球温暖化は防止できるのでしょうか?そもそも水素はどこからやってくるのでしょうか?
2. 水素の製造方法
水素を利用することで地球温暖化が防止できるかどうかは、水素を製造する過程を見れば検証できます。
一般的に水素を製造するには次の5つの方法があります。
- 水を電気分解する
- 化石燃料から生成する
- 木材から生成する
- 温泉水から作る
- 製鉄所等の副生ガスを利用する
それぞれ水素が出来る過程を見てみましょう。
2-1. 水を電気分解する
水素を作る方法で最もメジャーなものが水の電気分解です。
水に水酸化ナトリウム等を少量溶かし、電圧をかけると水が分解されて水素と酸素が発生します。
$$2H2O⇒2H2+O2$$
副産物が酸素のみで非常にクリーンな方法ですが、分解させるために電気が必要になるため触媒利用による高効率化などの課題があります。また、発電するために化石燃料を用いている場合はその際にCO2が発生することになるため地球温暖化対策にはなりません。
今後、核融合発電や原子力発電などCO2が発生しない方法で電気が作られるようになった場合は自動車の燃料として水素を利用することは温暖化対策として有効だと言えます。
2-2. 化石燃料から生成する
石油や天然ガスなどの化石燃料を分解して水素を取り出します。
最も安価で大量の水素を製造することが可能です。
空気と混合して不完全燃焼をさせたり水蒸気と反応させることで水素を発生させます。この際、水素だけではなくCO2やCO等の温室効果ガスも発生するため地球温暖化の防止にはつながりません。
2-3. 木材から生成する
木材などのバイオマス燃料も水蒸気と反応させることで水素を発生させることが出来ます。
ここでも木材の原料セルロースには炭素が多く含まれるのでCOやCO2等の温室効果ガスも発生してしまいます。
2-4. 温泉水から作る
理科の実験で、酸性の溶液にアルミニウムを入れると水素を発生しながら解けるということをやったことがある方も多いのではないでしょうか?
この性質を利用して、酸性の温泉水にアルミニウムを入れて水素を発生させるという取り組みも行われているようです。
自然に湧き出ているものから水素が発生出来れば、温室効果ガスを排出することなく水素を生成できます。
2-5. 製鉄所等の副生ガスを利用する
製鉄所などで燃料とされるコークスは石炭を蒸し焼きにしたものです。コークスを製造する際に発生するコークス炉ガス(COG)には多くの水素が含まれています。
このように、本来の目的とは別の形で副生する利用価値のあるガスを副生ガスと呼びます。製鉄所のほかに水素が副生ガスとして発生する工場として食塩電解工場等があります。
結局のところ、どの方法を利用しても水素を大量に生成させるためには同時に温室効果ガスが発生してしまいます。
つまり、水素を利用することで最終反応では水しか生成しませんが、それが直接温暖化防止につながっているかといえば疑問が残るところです。
3. 水素から動力を得る仕組み
水素を動力に変換する仕組みはエンジンなどの内燃機関のように燃焼させるわけではなく、燃料電池を利用して電気を発生させます。
燃料電池の仕組みは次の動画が非常にわかりやすいです。
燃料電池は、水素と酸素を反応させて電気を作ることができます。酸素は空気中から取り入れられ、排出されるものは水のみなので非常にクリーンです。
発電させた電気でモーターを回転させることで水素が動力に変換されます。
4. 水素を利用するメリット
では、水素を利用することによるメリットって何でしょうか?水素を利用することによるメリットは大きく2つです。
- 環境にやさしい
- 補給が早い
水素を利用した場合、排出されるものは水のみです。ガソリン車のように排ガスを発生しません。
排ガスにはCO2だけではなく硫黄酸化物や窒素酸化物も含まれるため、環境に悪影響を与えます。水素を利用すれば、街の環境に悪影響を与えず環境にやさしい燃料と言えます。
また、電気自動車と比べると充填する時間が短くすみます。
- 電気自動車・・・30~60分
- 水素自動車・・・3分
水素は化石燃料のようにすぐに燃料を充填出来て、ガソリン車のように排ガスを出さないというガソリン車と電気自動車のいいとこどりだと言えそうです。
5. 水素を利用するデメリット
逆に水素社会に向けての課題は次の2つです。
- 貯蔵が難しい
- 爆発リスクがある
水素は常温では気体のため、液体の状態で貯蔵するには高圧にしなければいけません。一般的に水素自動車に充填する際には35MPa程度まで高圧にしています。充填圧力を高くすればそれだけ供給できる水素の量も増えるので、タンクの高圧化が進められています。
また、水素は非常に燃焼しやすいので爆発のリスクがあります。水素爆発に関する実験の動画があったのでこちらに載せておきます。
6. まとめ
水素を利用して温暖化を防止させるためには水素を製造する過程で発生するCO2を如何に減らすかがカギになりそうです。
水の電気分解を行う際には、利用する電気を太陽光や風力などの自然エネルギーで賄うことで脱炭素化できそうです。電気は一般的に貯蔵しておくことが難しいエネルギーなので水素を利用することで、電気エネルギーを貯蔵可能に出来るというメリットもあります。
技術的に様々な課題はありそうですが、水素社会が訪れ、街が美しくなる日がくればいいですね。