近年、省エネルギー機器の代表としてヒートポンプが良く出てきます。製品名としてはエコキュートやエコジョーズなどが有名ではないでしょうか?普段生活していると、CMなどでよく耳にするヒートポンプですが、なぜ省エネ機器になるのかご存知でしょうか?
この記事では、ヒートポンプとは何か?また、その原理やどんなところで利用されているのかについて詳しく解説してみたいと思います。
こちらの記事は動画でも解説しているので、動画の方がいいという方はこちらもどうぞ。
1. ヒートポンプとは?
ヒートポンプは気体を圧縮や膨張させると温度が変化するという性質を利用して熱エネルギーを移動させる技術です。空気や地熱、廃温水などの熱エネルギーを利用することで通常のヒーターなどに比べ高いエネルギー効率を得ることができます。
加熱目的のものをヒートポンプ、冷却目的のものを冷凍機と呼びますがどちらも基本的なサイクルは全く同じです。ヒートポンプはエアコン、冷凍機、ヒーター、冷蔵庫、洗濯乾燥機など様々な電化製品にも利用されており、とても身近な技術です。
冷媒を電気で圧縮するものを電気ヒートポンプ、ガスエンジンで圧縮するものをガスヒートポンプ、水溶液の濃度差による蒸気圧を利用したものを吸収式冷凍機と呼びます。
同じヒートポンプでもどの燃料を利用するかによってコストや原理が変わってきます。家庭用に用いられていることの多いヒートポンプ式給湯器のエコキュートは電気ヒートポンプです。
1-1. 原理
ヒートポンプは冷媒が次のような工程を経てぐるぐる回っています。
冷凍サイクルのアニメーションを作成したのでこちらに載せておきます。
- 圧縮機:高温高圧になる。
- 熱交換器(凝縮器):熱を奪われて液体になる。
- 膨張弁:減圧されて気体に戻る。(気化により温度が下がる)
- 熱交換器(蒸発器):熱を奪って気体になる。
まずは、冷媒が圧縮機によって圧縮されます。理想気体の状態方程式により体積が小さくなると、圧力と温度が上昇します。
$$PV=MRT$$
P:圧力、V:体積、M:質量、R:気体定数、T:温度
次に高温高圧になった冷媒が熱交換器を通り、熱を奪われて液体になります。エアコンで言うところの室外機に当たります。熱交換器は2つの流体の温度の熱エネルギーを受け渡す機器で、流体の間に温度差があれば勝手に熱交換が行われます。
ここで、水などを利用して熱を奪うことでお湯を作るのがヒートポンプ給湯器ということになります。
その後、膨張弁によって圧力が低下します。圧力が低下すると一部が気化し、気化熱によって温度が下がります。温度が下がった状態でもう一方の熱交換器を通り、もう一方の流体の熱を奪います。エアコンの冷房や冷蔵庫はこの原理によって冷やしています。
このように気体の膨張と収縮による温度変化を利用して熱を移動させるのがヒートポンプです。動力源が圧縮するときのエネルギーのみというところが最大の特徴です。
ヒートポンプの原理について詳しく解説してある動画があるので、こちらも合わせてご覧ください。
1-2. 熱サイクル
冷暖房などに用いられるヒートポンプの熱サイクルは低温のエネルギーを高温に汲み上げる逆カルノーサイクルになっています。
冷凍サイクルのTs線図、Ph線図は次のようになります。
- 1⇒2 断熱圧縮(圧縮機)
- 2⇒3 等圧放熱(凝縮器)
- 3⇒4 絞り膨張
- 4⇒1 等圧加熱(蒸発器)
熱サイクルの効率は次の式で表すことができます。
$$η=\frac{Qe}{W}=\frac{h1-h4}{h2-h1}$$
1-3. 成績係数とは?
ヒートポンプには性能を表す成績係数という値があります。成績係数はエネルギー消費効率やCOP(Coefficient Of Performance)とも呼ばれ、与えた動力エネルギーに対してどれぐらい熱を汲み上げたかを示す指標で次の式で表されます。
$$COP=\frac{Q}{W}$$
Qは汲み上げることのできるエネルギー(kW)、Wは圧縮するために使用する動力エネルギー(kW)です。ヒートポンプは外部の熱を利用して加熱や冷却を行うので、圧縮機のエネルギーのみを分母にもつCOPはエネルギー効率とは違って1を超えるのが一般的です。
成績係数が高ければ高いほど、ヒートポンプの性能はいいということになります。エアコンなどではカタログの冷房(暖房)能力(kW)を定格の消費電力で割ればCOPを計算することができます。
但し、ヒートポンプの性能はその時の外気温などによって効率が変わります。そこでCOPを記載する際には「冷房時のCOPは外気温35℃で暖房時のCOPは外気温7℃で算出」という条件があります。
そこでエアコンなどの機器効率を表すために、より実態に近い数値として通年エネルギー消費効率のAPF(Annual Performance Factor)というものがあります。
APFの詳しい計算方法についてはこちらの資料を参照してください。⇒ APF表示について(外部リンク)
2. ヒートポンプが利用されている家電
ヒートポンプは様々な家電で用いられています。給湯器の場合、ヒートポンプの技術を利用することで、通常の電気ヒーターと比べ電気代が1/3になると言われています。ヒートポンプ技術が利用されている家電には次のようなものがあります。
- 冷蔵庫
- エアコン
- 洗濯乾燥機
- 給湯器
どれも家庭用としては多くの電気を使用する機器なので高効率のものに変更するだけで電気代を安く抑えることができます。大規模な工場や病院などの設備では、エネルギー分散の観点も踏まえてガスヒートポンプ式の空調管理システムを導入しているところもあります。
空調機や冷蔵庫に関しては以前よりヒートポンプ技術が利用されてきました。最近、話題に上がるヒートポンプは主に給湯器をさしているのではないかと思います。
動力源としてガスと電気のどちらがいいかはその時々の電気料金やガス価格によって左右されます。
3. ヒートポンプのメリット、デメリット
ヒートポンプは省エネ機器として注目されますが、やはりメリットばかりではなくデメリットも存在しています。それぞれ項目を挙げてみます。
- エネルギー効率が高い
- ランニングコストが安い
- 電気のピークを下げられる
- 補助金が利用できる
ヒートポンプのメリットは何といってもエネルギー効率が高いことです。投入する動力エネルギーに対して、外部のエネルギーを汲み上げるので有効に利用できる熱量は大きくなります。これによって、ランニングコストが安くなりCO2排出量も抑えることができます。
また、ヒートポンプ式給湯器が注目される理由は、深夜の電気料金が安いときにお湯を作り昼間には貯めておいたお湯を使うという発想があるためです。電気は基本的には作って貯めておくことが難しいエネルギーなので、昼間と夜間の電力使用量を平準化できれば発電コストを安く抑えることができます。
日本ではエネルギー自給率が低く、エネルギーコストも高いことからヒートポンプ給湯器の利用を国策として推進しています。このような背景から設備の導入に補助金が出る事も多くそれもメリットの一つになります。
- イニシャルコストが高い
- 瞬間的な能力が低い
- メンテナンスコストがかかる
- 深夜に低周波騒音が発生する(給湯器)
エネルギー的には非常に有能なヒートポンプですが、やはりいくつかのデメリットもあります。
まず、加熱部分とは別に圧縮機などが必要になり機器が増えることによってイニシャルコストが高くなります。エネルギーコストの削減によるメリットとイニシャルコストの差分を回収するためには数年の期間がかかります。
また、機器が増えることによってメンテナンス費用も上がります。ヒートポンプ式の洗濯乾燥機などでは、定期的にほこりを清掃してやる必要があったり、圧縮機のモーターが数年で故障してしまったりというトラブルも多いようです。機器構成が複雑になる分、故障のリスクも高くなると思ったほうがいいかもしれません。
ヒートポンプ式給湯器は夜に加熱を行うので深夜の低周波騒音についても問題になることがあります。冷蔵庫が夜にブーンという低い音を鳴らしていることをイメージしていただければいいかと思います。
4. ヒートポンプの冷媒
ヒートポンプの冷媒として代表的なものに次のものがあります。
- CFC:クロロフルオロカーボン
- HCFC:ハイドロクロロフルオロカーボン
- HFC:ハイドロフルオロカーボン
- PFC:パーフルオロカーボン
- SF6:六フッ化硫黄
- CO2:二酸化炭素
主にCFCやHCFCなどといったフロン系の冷媒が利用されていましたが、オゾン層と化学反応を起こし環境に悪影響を与えるということで、現在はHFCなどが利用されています。エコキュートでは自然冷媒としてCO2を高圧圧縮したものを利用しています。
すでにフロンが利用されている家電については、家電リサイクル法、フロン回収・破壊法、自動車リサイクル法などの法律が設けられており、廃棄方法が決められています。
フロンについての詳しい説明はこちらの資料をご覧ください。
5. まとめ
- ヒートポンプは熱を移動させる技術
- 家電製品などで省エネ技術として利用されている
- エネルギー効率が高くランニングコストが安い
ヒートポンプはこれまでエアコンの中の技術という認識が一般的でした。しかし、最近では工場から発生する大量の利用価値のない温水から熱を汲み上げて蒸気を発生する機器などが出てきています。
これからも工場やプラントの省エネルギーに貢献する機器として広がっていく事が予想されます。