気体がオリフィスや減圧弁を通過するときは、絞り膨張という現象が発生します。
この記事では、気体特有の現象である「絞り膨張」について解説したいと思います。
こちらの記事は動画でも解説しているので、動画の方がいいという方はこちらもどうぞ。
1. 絞り膨張とは?
絞り膨張とは、気体がオリフィス(穴の開いた金属板や筒)や開度を絞ったバルブなどの断面積の小さい流路を通る際に、一時的に圧力が下がる現象のことを言います。
絞り膨張は次のような流れで発生します。
- 絞りにより通過する際の流速が増す。
- 流速が増すことでベルヌーイの定理により圧力が下がる。
- 元のサイズに戻ると流速が戻り圧力も戻る。
この時、外部との熱のやり取りがないため一次側と二次側の流速は最終的に同じになります。
理想気体の場合、この時の関係式は次のようになります。
$$P1=P3>P2$$
$$v1=v3<v2$$
$$h1=h2=h3$$
P:圧力 v:流速 h:エンタルピー
外部と熱のやり取りがない断熱変化で、一次側と二次側のエンタルピーは変化しない等エンタルピー変化になります。
絞りによって流速が増し、圧力が低下するという現象は流量計などにも利用されています。
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【蒸気】減圧すると乾き度が上がる?過熱になる?
2. 実際の絞り膨張
ただし、実際の流体での絞り膨張では次のような変化が発生します。
- 絞りにより通過する際の流速が増す。
- 弁体やオリフィスとの摩擦によりエネルギーが失われる。
- 失われた分の二次側圧力が低下する。
- 二次側の気体の比体積が膨張する。
まず、理想気体と同様に絞りにより通過するときの流速が増加します。
流速が増すとオリフィスや弁体との摩擦発生し、摩擦によって圧力エネルギーが損失します。これを圧力損失と呼びます。
空気を入れたピストンを押すと小さくなることから分かるように、気体は圧力が上がると比体積が小さくなり、圧力が下がると比体積が大きくなるという特性があります。
よって、絞り設けることで圧力が下がり、二次側で気体の比体積が膨張することになります。
理想的な状態では、摩擦損失は考慮しないため等エンタルピー変化になりますが、実際には摩擦損失により圧力が元の状態まで回復できなくなることがあります。
絞りを設けた流量計などを利用する際には、圧力損失をどの程度考慮するかを検討する必要がありますね。
摩擦損失についてはタービンの効率を考える際にも同様のことが言えます。
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【タービン】タービン効率の考え方、熱落差ってなに?
3. まとめ
- 「絞り膨張」は絞りを設けた際に流速が上がって圧力が低下する現象。
- 理想的には断熱変化、等エンタルピー変化になる。
- 現実的には摩擦損失によって二次側で圧力損失が発生する。
この現象は、マノメーターの流量測定原理などにも利用されています。
興味のある方は「マノメーター」の記事も合わせてご覧ください。
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