ボイラーの水処理を考えるときに「溶存酸素」という言葉を聞いたことはありませんか?
ものづくりの現場において、連続監視が必要とされるユーティリティや製品は、その計測器の仕組みについてもよく理解しておくほうが良いでしょう。
今回はボイラー水質基準の一つである溶存酸素について、測定器の原理と注意点を解説します。
溶存酸素とは
溶存酸素とは水に溶け込んでいる酸素のことで、単位はmg/Lで表されます。水中の動植物はこの溶存酸素を取り込んで生きています。
飽和溶存酸素量は、水の温度や気圧に影響されます。環境分野では、汚染度の指標として用いられています。
産業分野における溶存酸素といえば、ボイラーです。ボイラー内では水が高温高圧となり飽和溶存酸素値が高くなります。また、閉鎖系で酸素の逃げ場がないため溶存酸素濃度がどんどん上がっていきます。
酸素濃度が高い状態で使用し続けると、ボイラー缶内や蒸気配管、覆水配管が酸化腐食し、穴あきの原因となってしまいます。
そのため、ボイラー管理においては溶存酸素濃度を計測・モニタリングし、沸騰させて気体を飛ばしたり(脱気)、脱酸素剤を添加したりなどで適切な濃度に抑えています。
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溶存酸素計の原理
溶存酸素濃度の測定には隔膜電極を用いた手法がよく使われています。
2つの電極に電圧をかけると、溶存酸素量に依存した電流が流れるという性質を利用しています。主に2種類あり、簡単に解説します。
ポーラログラフ式
電極間に一定の電圧(0.5〜0.8Vであることが多いようです)をかけて、電極において酸化還元反応を行わせるタイプをポーラログラフ式と呼びます。
ポーラログラフと元々は水銀を用いた電流測定装置で、ノーベル賞を受賞した技術でもありますが、現在は水銀を用いない方法が使われています。
ガルバニックセル式
2つの電極には異なる素材が使われるのですが、その組み合わせを鉛と銀などにしたものをガルバニックセル式と呼びます。このタイプは電源なしでも、溶存酸素に応じた電流が流れます。
名称は、ガルバニ電池に由来しますが、これは単に電池とも呼ばれています(物質エネルギーを電気エネルギーに変えるものの総称)。
異種金属接触による腐食のことをガルバニック腐食(電食)とも言いますが、これも金属間で電池を形成して腐食が起こる現象です。
その他の原理に、蛍光式や化学的分析式などがあります。
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溶存酸素計の注意点
上記の隔膜電極式は原理や特徴が似ているため、注意点も同様です。
校正が必要
検出器を交換した際や、洗浄後などは校正をかけることが推奨されています。
流速が必要
隔膜電極付近の溶存酸素は、酸素が検出器に取り込まれ局所的に下がるとされ、正確な測定には止水ではなく多少の流れや攪拌が必要です。
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気泡に注意
酸素を取り込む隔膜部分に気泡や汚れがつくと、正しい計測ができません。検出部に異物が付着していないか、目視確認してください。
温度補正
酸素が隔膜を透過する度合いが温度に影響されるため、温度補正が必要です。そのためサーミスタがついている場合が多いですが、これが故障すると正しく計測できません。
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まとめ
- 溶存酸素とは水に溶け込んでいる酸素
- 溶存酸素を自動計測するのは隔膜電極式が一般的
- 表面の気泡や汚れに注意、校正が必要
計測器の仕組みを理解しておくことで、現場での不測の事態の対応や、機器故障の予防に生かしてください。