伝熱工学

【伝熱工学】熱伝導率と熱伝達率の違いは!?2つを合わせたU値の求め方

熱伝導率と熱伝達率の違いは何でしょう?

どちらも熱の伝わりやすさを表しているので勘違いすることもありますが、この2つは似ているようで使い方が違います。

今回の記事では、熱伝導率と熱伝達率の違いについて解説してみたいと思います。

こちらの記事は動画でも解説しているので、動画の方がいいという方はこちらもどうぞ。

熱伝導率と熱伝達率の違い

熱伝導率と熱伝達率の違いは、同じ物質内で熱が伝わるか、別の物質同士で熱が伝わるかの違いです。

熱伝導率、熱伝達率のそれぞれの言葉の意味を見てみます。

熱伝導率

熱伝導率は、1つの物体の端から端へ熱が伝わるときの伝わりやすさを表しています。記号ではλ(ラムダ)で表されることが多く、単位はW/(m・K)です。

WはJ/secなので、単位時間あたりに伝わる熱量を表しています。分母に長さの単位m(メートル)が入っているのも熱伝導率の特徴です。

つまり、熱伝導率から熱の伝わりやすさを考えてみると、熱を伝えやすくて薄くて被加熱物と加熱物の温度差が大きいほうが熱が伝わりやすいということになります。

エコおじい
感覚的にも理解しやすいですね。

熱伝導率は、物質ごとに決まっていて一般的な室温では次のように定義されています(周りの温度によって熱伝導率は変化します)。

  • 銅 398
  • アルミ 236
  • 水 0.6
  • 空気 0.024

建物の断熱性を高めるために、二重サッシが採用されているのも、空気の熱伝導率の低さをみるとよくわかりますね。

「熱伝導率の高いフライパン」などは熱を伝えやすい材質を使って薄く均一な厚みにすることで料理のうま味を閉じ込めるというイメージです。

また、乾いた布で熱い鍋を運ぶのと濡れた布で熱い鍋を運ぶのでは、後者のほうが熱く感じるのもこの数字を見ればよくわかります。空気を入れるだけでどの程度の断熱効果があるかは「保温で放熱量は何%減るか?」という記事で計算しています。

【配管】放熱量を簡単に計算する方法。保温の効果はどれくらい?

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このように、熱伝導率は同じ物質内で熱を伝えるときの伝わりやすさを表しています。

熱伝導率一覧(外部リンク)

熱伝導についてはこちらの動画も分かりやすいので載せておきます。

【伝熱工学】夏場の鉄棒が冷たいのはなぜ?

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熱伝達率

熱伝達率は、2つの物体の接触面を通過する熱の伝わりやすさを表しています。記号ではh(エイチ)やα(アルファ)が使われ、単位はW/(m2・K)です。

熱伝導率と違って分母の単位がm2(平方メートル)になっています。面積をかけることで伝熱量を計算することができます。

熱伝導率と同じように、熱伝達率も値が大きければ大きいほど熱が伝わりやすいということになります。熱伝達率は、同じ物体同士でも流速などによって変化するため、数値に幅を持たせています。

例えば、同じクーラーの効いた部屋にいても、扇風機で流速の早い風を当てたほうが涼しく感じますよね。空気と肌という同じ物体同士でも、その様態によって伝熱が変化するということです。

代表的なもので熱伝達率は次のようになります。

  • 静止した空気・・・4.67
  • 流れている空気・・・11.7~291.7
  • 流れている油・・・58.3~1750
  • 流れている水・・・291.7~5833

このように熱伝達率を見れば、その物体が熱媒として有効に使えるかどうかを確認することができます。

熱伝達には、その方法によって対流熱伝達、沸騰熱伝達、凝縮熱伝達のようにいくつかの名前が付けられています。

  • 対流熱伝達・・・同じ状態の物質が流れて熱を伝える方法で一般的な水の冷却など。
  • 沸騰熱伝達・・・液体から気体に変化するときに熱を奪う、打ち水のような状態。
  • 凝縮熱伝達・・・気体から液体に変化するときに熱を伝える伝達方法。

熱伝達率は流体の熱の伝わりやすさなので条件によって値が変わるというのがポイントです。

熱伝達率(外部リンク)

熱伝導率と熱伝達率を合わせたU値について

熱伝導率や熱伝達率は熱計算を行うときは、単独で使用されることはあまりなく、2つの値を複合させた熱貫流率(総括伝熱係数)U値が利用されます。

U値とは?

熱貫流率U値は熱通過率や総括伝熱係数などとも呼ばれ、対流伝熱と伝導伝熱を組み合わせた熱の伝わりやすさを表す指標です。単位はW/m2KやJ/m2Kなどで表されます。

以前は「K」という記号が使われていましたが、省エネ法の改正に伴い「U」が用いられるようになりました。

U値が大きければ熱が伝わりやすく、小さければ熱が伝わりにくいということになります。

仮に2つの物体で同じ熱量を交換させたい場合、U値が大きければ小さな熱交換器で良く、小さければ熱交換器が大きくなります。このあたりの計算は「熱交換器の伝熱面積計算方法」に記載しています。

【熱交換器】熱交換器の伝熱面積計算方法

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U値の求め方

U値は次の式で計算することができます。住宅で2重窓を利用する場合など、伝熱面が1つではなく複数ある場合は熱伝導率や熱伝達率の数も増えていきます。

$$\frac{1}{U}=\frac{1}{h1}+\frac{L}{λ}+\frac{1}{h2}$$

  • h1:熱伝達率 W/m2K
  • L:熱板厚さ m
  • λ:熱伝導率 W/mK
  • h2:熱伝達率 W/m2K

伝熱面積が汚れている場合は汚れ係数という数値を上の式に入れる場合もあります。式だけを覚えようとすると混乱するので、式の意味を考えてみましょう。

上の式からU値を大きくするためには

  1. 熱伝達率h1の大きい物体を使う。
  2. 熱板の厚さを薄くする。
  3. 熱伝導率の大きい材質を使う。
  4. 熱伝達率h2の大きい物体を使う。

という事になります。言葉で理解すると感覚的に当たり前なことばかりですね。

このように、どうすればU値が大きくなるかということを意識して式を見れば分母と分子を間違えたりする心配がありません。

熱交換器が熱を伝える仕組みについてはこちらの動画が分かりやすいので載せておきます。

【伝熱工学】汚れ係数とは何か?

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U値の活用方法

2つの物体間で伝わる熱量は次の式で表すことができます。

$$Q=UAΔT$$

  • Q:伝熱量 W
  • U:熱貫流率 W/m2K
  • ΔT:2つの物体の温度差 K(℃)

この時、伝えたい熱量Qが大きくU値が小さい場合は伝熱面積Aを大きくする必要があります。一方、伝えたい熱量Qが小さくU値が大きい場合は伝熱面積Aが小さくて済みます。

このようにQ、A、U、ΔTの関係を考えながら、どの熱媒を利用すればいいのか、どんな材質を用いればいいのか、どの程度のサイズにすればいいのかという検討を行います。

実際の熱交換器では、それぞれの物体の入口と出口の温度差の関係から、対数平均温度差という値を計算して上の式に導入します。

【熱交換器】対数平均温度差LMTDの使い方と計算方法

続きを見る

 

U値の計算や放熱計算が出来るエクセルを作成しました。

実際にエクセルを使って条件を変えて計算したいという方は、ココナラでエクセルファイルを1000円で販売しているので購入していただけるとありがたいです。

「配管放熱の保温に関する計算を自動で出来ます」というサービスで検索してもらえると出てきます。

自分で1から作るとなると数時間はかかるので時間の削減になりますよ。熱の勉強をしたいという方にもおすすめです。

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まとめ

  • 熱伝導率と熱伝達率の違いは同じ物体か別の物体かということ。
  • 熱伝導率は物体によって決まり、熱伝達率は物体の様態によって決まる。
  • 熱計算を行う場合は2つを合わせたU値を使う。

熱伝導率と熱伝達率は、混乱することも多いのでしっかり確認していきましょう。

U値の意味を理解できれば、どうすれば熱が伝わりやすくなり生産性があがるのか?などを検討できるようになります。

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エコおじい

プラントエンジニア兼Webライターです。「工業技術をどこよりも分かりやすく解説する」をテーマに2017年からブログ、Youtubeで情報発信をしています。ライティングなどのお仕事のご相談はXのDMからお願いします。

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