工場やビルの設備導入・更新時に、吸収式冷凍機という言葉を初めて耳にしたという人もいるのではないでしょうか。
使用するユーティリティを確認すると、「え、蒸気!?」と驚かれるかもしれません。
なぜ冷やす機器に熱い蒸気が必要なのか、解説したいと思います。
こちらの記事は動画でも解説しているので、動画の方がいいという方はこちらもどうぞ。
吸収式冷凍機の原理
エアコン(冷房)や冷蔵庫は、ものの温度を下げるのに使用されますが、これらにはヒートポンプという技術が使われています。
この原理は、圧縮された液体が減圧時に気化する際に吸熱する反応を利用しています。
ヒートポンプについては以前の記事で詳細をまとめていますので、こちらもご覧ください。
【ヒートポンプ】省エネ機器といわれるのはなぜ?原理や用途を徹底解説
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さて吸収式冷凍機は、ヒートポンプとは原理が異なります。
冷却の原理としては、塩濃度の薄い水蒸気を塩濃度の濃い水に吸収させることで減圧空間を作り出すことにより、水蒸気が発生する時の気化熱で熱を奪うという原理です。
ここでいう濃度は、溶媒に溶けた物質のことでよく、実際には塩ではなく臭化リチウムが用いられます。
順序としては、蒸発→吸収→再生→凝縮という4つのプロセスを機械の中で繰り返します。
吸収式冷凍機のサイクル
- 蒸発は、水が負圧空間にて気化して周囲の温度を下げるプロセスです。この空間(蒸発器)に水配管を通しておけば、中に流れる水が冷やされて出て行きます(吸熱)。
- 吸収とは上記のように、塩の濃い水に薄い水蒸気が溶けやすいという性質を利用したものです。濃度が高いものが液体を吸収するというのは、塩が湿気を吸うのと同じ原理です。水蒸気が液体の水になる(吸収される)とき、体積が数百倍小さくなるため空間(吸収器と蒸発器)の圧力が下がります。
- 濃度の上がった水を再び水蒸気に戻すのが再生と呼ばれるプロセスです。水を沸騰させても塩は液体側に残ったままなので、濃度の低い水蒸気だけが発生します。この空間を再生器と呼びます。
- 発生した水蒸気を⑴に戻して使うために、冷やして液体にします。冷たい水(実際には常温やそれ以上の温度)が流れる配管を通すことで、水蒸気が熱を奪われ水になります(凝縮器)。
動画がありましたのでこちらもご覧ください(2:47から吸収式冷凍機の説明が聞けます)
見てもらったように、ヒートポンプにあった高温高圧用の圧縮機がなく、吸収式冷凍機には水を循環させるポンプしか電気を使うものがないということがわかります。ヒートポンプタイプのターボ式冷凍機よりも電気代が安い所以です。
なお⑷のために用いられるクーリングタワー(水を熱交換器のコイル外部に流し、表面積を稼いで外気に晒し熱を下げる機器)は、吸収式・ターボ式冷凍機どちらにも使われます。
吸収式冷凍機に蒸気を使う理由
上記のプロセス⑶では溶媒である水を加熱し、水蒸気が次の工程へ移動します。ここで加熱が必要というわけです。
加熱方法にはバーナーでの加熱(つまり燃料が必要)、もしくは蒸気加熱を選択ができます。
一般的には(発電の原理的には)、電気は燃料よりも価格が高くなるため、燃料もしくは単価の低い蒸気で加熱を行った方が省エネルギーということになります。
使用先の現場において、
- 燃料タンクと離れた場所に吸収式冷凍機を置く必要がある
- 排熱ボイラの使用などで余剰な蒸気が工場にある、
- 工場で使用できる電力の余分が少ない
という場合には蒸気加熱の吸収式冷凍機のメリットを十分活用できると言えるでしょう。
まとめ
- 吸収式冷凍機の溶媒再生プロセスにて加熱が必要なので蒸気が使われる
- 電気使用量はターボ式より抑えられるが、その分熱源が必要
吸収式冷凍機に熱が必要なんて直感的にはわかりにくいですが、イラストを見ながら原理を確認してみてください。