バイオマス燃料を燃焼させて、蒸気を発生させる機器を「バイオマスボイラ」といいます。
近年、化石燃料の利用による二酸化炭素の排出を抑えるため木材や廃棄物を使用したバイオマス発電所が注目を集めていますが、発電を行うためにはバイオマスボイラは必須です。
この記事では、バイオマスボイラとは何か?について詳しく解説していきたいと思います。
バイオマスボイラとは?
バイオマスボイラとは、木材、廃棄物、汚泥などのバイオマス燃料を使用して蒸気や温水を発生させるボイラです。
従来の石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料方式と比べると燃料費を安く抑えることができ、二酸化炭素の排出を抑えるという点で再生可能エネルギーとして注目を集めています。
例えば、木材チップを原料とした場合、燃焼させることで発生した二酸化炭素は、新たに木を植えることで回収できるため、長い目で見れば二酸化炭素は増加しないという事になります。
このように、一部で発生した二酸化炭素を別の活動によって回収することをカーボンニュートラルと言います。
バイオマスボイラは地球温暖化の防止や地方の山間地域での廃材を利用した新たなビジネスとして注目を集めています。ちなみにバイオマス(biomass)というのは、死んで間もない生物の遺骸のことをいいます。
バイオマスボイラに関していくつか分かりやすい動画があったので載せておきます。
バイオマスボイラの燃料
バイオマスボイラには木材由来、廃棄物由来、生物由来など実に様々な種類の燃料があります。とにかく安定的に燃焼でき、発熱量が多ければ燃料になるというのがバイオマス燃料の特徴です。
それぞれについて詳しく見ていきます。
木質チップ
木質チップは間伐材などを木材専用の破砕機に投入し、小さなチップ上にしたものを言います。
重量のある丸太を軽量の木質チップにすることで、コンベアによる燃料の自動供給が出来るようになります。また、細かくすることで燃焼も安定させることができます。
木質チップの製造機器について動画を載せておきます。
木質ペレット
木質ペレットは木材を破砕した後に乾燥させ、固形物に押し固めたものを言います。木質バイオマスペレットとも呼ばれます。
原料の木材によってホワイトペレット、バークペレット、全木ペレットなどに分かれます。
品質や成分の基準についてはJISでは決められておらず、一般財団法人日本燃焼機器検査協会が定めた「木質系バイオマスペレットの基準 (JHIA N-5651) 」に沿って製造を行っています。
薪
薪は木材を細かく破砕するのではなく、燃やしやすいサイズに分割したものです。
ヨーロッパなどでは家庭用に薪を使用したボイラが多く販売されており、燃料としては最もシンプルで分かりやすいものになります。
但し、薪の場合は燃料の自動供給が難しいため、家庭用などの小型の設備が主流となっています。
バイオガス
バイオガスは生物資源から発生するガスのことを言います。原料としては家畜の糞尿や生ごみなどが利用されます。
他のバイオマス燃料に比べ、大型タンクで発酵させるという工程があるため、プラントとしては大型になります。
次の動画は生ごみを発酵させることでメタンガスを発生させ、残った残留物を乾燥させることで、残差も燃料にすることができるというプラントです。
こちらの設備では、バイオガスを利用してガスエンジン発電を行っています。
RPF(廃棄物由来の固形燃料)
RPFはRefuse derived paper and plastics densified Fuelの略で、廃プラスチック、紙くず、木くずなどの廃棄物をペレット状に押し固めたものです。
固定燃料として利用できるため石炭の代替燃料として注目されています。
廃棄物の固形燃料としてはRDF(Refuse Derived Fuel)もありますが、ダイオキシンによる環境問題などの観点から、バイオマス燃料としてはRPFが一般的です。
次の動画の3分あたりからRPFに関する説明が出てきます。
PKS(パーム椰子殻)
PKSはPalm Kernel Shellの略でパーム果実の種から油を搾油した後の殻のことをいいます。
主にインドネシアやマレーシアから輸入されており、大型タンカーで運ばれています。発熱量も高く、木質チップなどと混合させて利用する場合が多いです。
廃タイヤ
自動車の廃タイヤもバイオマスボイラの燃料として利用されます。
日本全国の廃タイヤ約100万トンのうち、約半分が燃料として利用されているようです。廃タイヤは石炭と比べ、硫黄分も少なく環境破壊も比較的少ないとされています。
バイオマスボイラのメリット・デメリット
バイオマスボイラのメリットデメリットについて考えてみます。
バイオマスボイラのメリット
ランニングコストが安い
バイオマスボイラの燃料は、化石燃料に比べると価格が抑えられるため、ランニングコストを安く抑えることが可能です。
また、バイオマス燃料は政治的な要素が少なく、化石燃料ほどの価格変動がないため安定した運転を続けることができます。
ただ、最近では国内のバイオマス発電所が増加したことで、燃料調達価格も上がってきており、採算が取れなくなる事業所も出てきているようです。
⇒ ウッドショック直撃、朝来の木質バイオマス発電所が年内に事業停止へ(外部リンク)
国の補助金が受けられる
バイオマスボイラを導入する場合には、国の補助金が受けられる可能性があります。
日本では二酸化炭素排出量の削減目標を公約として掲げており、バイオマスなどの再生可能エネルギーはそれらに大きく寄与できます。
国の予算計画をみても、農林水産省、総務省、文科省、経産省、環境省などが再生可能エネルギーの補助金に関する予算を出しています。
⇒ 【参考】木質バイオマスに関連する国の支援策(外部リンク)
固定価格買取制度(FIT制度)にも適応しているので、発電によって得られた電力は20年間固定で高単価で売却することが出来ます。
二酸化炭素の排出量を抑えられる
バイオマス燃料を利用すれば、カーボンニュートラルとなるので温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を大幅に抑えることができます。
環境に考慮した経営を行うことは企業のCSR(社会的責任)的にもイメージアップにつながるため積極的にバイオマスを導入する企業もあります。
バイオマスボイラのデメリット
灰の処理が必要
バイオガス以外のバイオマス燃料を利用した場合、燃焼後の灰の処理が必要になります。
古来、灰は肥料として利用されていましたが、現在ではその量も年間数万トンと多く自然では吸収できません。また、環境にとって有害な重金属を含む可能性もあり、重金属安定剤の注入など灰処理設備が別途必要になります。
そのため、灰は産業廃棄物として埋め立て地に送られているのが現状です。産業廃棄物となれば、それを処理する費用も高額になるため、発電所のランニングコストを上昇させる原因になります。
出力調整が苦手
バイオマスボイラは化石燃料と比べ出力の調整が苦手で、常に一定の出力以上で燃焼を続ける必要があります。
化石燃料の場合は、燃料の噴霧量を調整することで蒸発量を制御できますが、バイオマスボイラの場合は燃料の供給量で制御を行っても応答性が緩慢で燃焼が成り行きなるからです。
そのため、熱として利用する場合は負荷のピークで選定するのではなく、連続運転できる領域で選定し、化石燃料と組み合わせながら工場側の負荷変動を吸収させる必要があります。
イニシャルコストが高い
バイオマスボイラは欧州などに比べ、日本での販売数が少ないため、設備を導入する際のコストが高くなります。
バイオマスボイラを導入する場合は、設置個所、配管経路などを十分に考慮し、設備費を可能な限り抑えることが重要です。
燃料の供給が不安定
バイオマス燃料は地産地消の再生可能エネルギーとして注目されていますが、大型の発電設備になると連続的に多量の燃料が必要になります。
そのため化石燃料より価格が安いという事で、世界中でバイオマスの導入数が増えると、需給のバランスが崩れ、価格が高騰する可能性があります。
バイオマス燃料は長年の歴史を持ち、完成された技術というわけではないため、急速な需要の拡大には追い付けないという課題があります。
バイオマスボイラの効率
バイオマスボイラの効率は、実際に蒸気として発生した熱量を供給したバイオマス燃料の熱量で割ることによって算出することができます。
バイオマスボイラの効率は一般的に80~90%以上とされています。これは、化石燃料を使用するボイラとほぼ同等の値です。
ただし、上の絵を見て分かるように、燃料内の水分は排ガスとして大気に放出されてしまうため、いかにしてバイオマス燃料の水分を効率的に乾燥させるかが重要になります。
【ボイラー】ボイラー効率って何?100%を超えるのはなぜ?
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まとめ
- バイオマスボイラはバイオマス燃料を使用して蒸気を発生させる機器。
- 木質由来、廃棄物由来、生物由来などがある。
- ランニングコストは安いがイニシャルコストが高い。
- バイオマスボイラの効率は90%を超えている。
バイオマス関連の技術は今後、日本でも導入が進められていくと思われます。
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