以前、電気加熱の種類について概要をまとめ、いくつか詳細に解説しました。産業分野では古くから使われている方法が多く採用されることが多いですが、近年新しい方法が実用化し、化学プラントで使われ始めています。
今回は、産業分野では新顔のマイクロ波による加熱方法について解説していきます。電気加熱の種類についてはこちらをご覧ください。
マイクロ波については会話形式でも解説しています。
マイクロ波とは
マイクロ波は電磁波の一種です。電磁波とは、電気の力が作る空間(電界)と磁石の力が作る空間(磁界)が組み合わされた波のことを指します。光も放射線も、電磁波に含まれます。
電磁波の種類を決めるのは波の長さ、つまり波長です。波長は波の山の頂点から、次の頂点までの長さを指す単位です。数nmから数千kmまで定義されており、短い方から放射線、光線、電波、超低周波と並びます。各名称内の細かな分類は、以下の表をご覧ください。
一般には、マイクロ波は電波の中でも1mmから1m程度の波長の波を指す言葉ですが、用語の用法によっても定義が変わるので注意が必要です。私たちが目で見ている可視光線や、加熱やセンサーに用いる赤外線よりも長い波長の電磁波であることがわかります。
マイクロ波加熱とは
マイクロ波加熱とは誘電加熱とも呼ばれ、マイクロ波を照射することで物体中の水分子を振動させて温度が上がる現象を利用した加熱方法です。
ご存知の通り電子レンジの加熱原理でもあります。
被加熱物に対してマイクロ波が当たると、対象の分子が電界の力を受けます。電子レンジで使われる2.4GHzの周波数のマイクロ波だと、1秒間に約24億回振動しており、被加熱物の水分子もそれに追従して激しく振動します。これがマイクロ波加熱の仕組みです。
特定の波長であるマイクロ波は、マグネトロンと呼ばれる真空管で生み出されます。マグネトロンは筒型の構造をしていて、中央に陰極、外側を覆うように銅製の陽極が設けられています。その上下には永久磁石が取り付けられていて、筒の軸方向に磁界が生み出されるような構造になっています。
順に説明していきます。
電気が流れると中央から外側に向かって電子が移動しますが、磁石による磁界の影響で軸方向に対して横方向の力が働きます(この力はローレンツ力で、フレミングの左手の法則で説明される力関係のことです)。
電力と磁力を調整すると、マグネトロン内部でぐるぐると回転するような形をとります。この電子が、陽極内部の空洞により共振されることによって増幅され、アンテナから発信されます。これがマイクロ波発生の仕組みです。
以下の動画には、マグネトロンの構造や電子の動きが詳しく説明されていましたので、ご興味のある方はご覧ください。
マイクロ波加熱のメリットは?
マイクロ波加熱には大きく2つのメリットが挙げられます。
- 被加熱物のみ加熱できる。
- 内部から加熱できる。
電子レンジを想像してもらうとよいのですが、レンジそのものは熱くならずに、食品を早く加熱できます。マイクロ波による加熱は、被加熱物のみを加熱できるので、装置本体からの放熱ロスを減らせる分、省エネルギーになります。
また、被加熱物の表面からではなく、内部から加熱ができるため効率よいという特徴があります。その他にも、加熱の均一性や、温度制御にもメリットがあるとされています。
なぜ最近産業分野で注目されているか
マイクロ波加熱は戦時中に開発された技術で、その後も電子レンジの加熱原理として、私たちの生活に欠かせない電化製品です。
ですが、産業分野での加熱といえば、電気抵抗加熱や蒸気加熱、燃料の燃焼による加熱が多いのではないでしょうか。
マイクロ波による加熱を産業レベルに使うためには、スケールアップが必要でしたが、近年研究開発が進み、大型の装置に導入することが可能となりました。数十〜1500L程度の反応器での導入実績があるようです。化学メーカーを中心に、国内で導入・検証が進められています。
大規模化した際の、マイクロ波加熱の特徴を十分活用できるような、高付加価値の製品製造において、検討の価値があるのではないでしょうか。
まとめ
- マイクロ波は電磁波の一種で、マイクロ波加熱は水分子を振動させることで加熱する。
- 産業分野では、近年大型装置に対応できるようになったため、化学業界を中心に注目されている。
新製品の製造ライン検討の際には、さまざまな加熱方法を検討される方もいらっしゃるかと思います。マイクロ波加熱がこれから普及するかもしれませんので、今のうちに勉強しておきましょう。