蒸気の流量を減圧弁やバルブなどによって絞ると、蒸気の乾き度が上昇したり、過熱蒸気になったりします。
その理由は、流量を絞ることで出口側の圧力は下がりますが、通過するエンタルピー(熱量)が一定だからです。
エネルギー管理士試験では、蒸気の絞り特性として出題されることがありますが、今回の記事では、蒸気を減圧することで乾き度が上昇したり、過熱蒸気になったりする理由を解説してみたいと思います。
減圧する蒸気が湿り蒸気の場合は乾き度が上がり、乾き蒸気の場合は過熱蒸気になります。
こちらの記事は動画でも解説しているので、動画の方がいいという方はこちらもどうぞ。
1. 蒸気を減圧するとどうなる?
前提として、蒸気が絞り膨張する場合は、バルブの入口と出口でエンタルピーは変化しません。
この特性によって、乾き度が向上したり過熱蒸気になったりします。
今回は0.6MPa(絶対圧力)⇒0.2MPaに減圧する場合を例にとって説明していきたいと思います。
次の飽和蒸気表を見ながら見ていきます。
1-1. 減圧する蒸気が湿り蒸気の場合
仮に入口の蒸気が乾き度80%の湿り蒸気の場合を想定してみます。
この時、減圧弁入口の0.6MPa蒸気の比エンタルピーは次の式で表せます。
湿り蒸気の比エンタルピーをh1、0.6MPaの飽和蒸気の比エンタルピーをh1''、飽和水の比エンタルピーをh1'、乾き度をxとすると
$$h1=h1''・x+h1'・(1-x)$$
これに、飽和蒸気表の値:h1''=2755、h1'=670、x=0.8を代入すると
このようになります。
入口と減圧後の出口のエンタルピーは一定なので、減圧後の比エンタルピーも2338[kJ/kg]になります。
では次に、0.2MPaに減圧した後の蒸気の乾き度を求めてみましょう。
減圧後の蒸気の比エンタルピーをh2、0.2MPaの飽和蒸気の比エンタルピーをh2''、飽和水のエンタルピーをh2'、乾き度をx2とすると
この式を乾き度を求める式に変換すると
等エンタルピー変化のため、h2=h3=2338とすると、これに飽和蒸気表の値:h2''=2706、h2'=504を代入すると
減圧後の乾き度は83%になり、80%から乾き度が3%上昇していることになります。
1-2. 減圧する蒸気が乾き蒸気の場合
次に、減圧する蒸気が乾き度100%の飽和蒸気の場合を考えます。
乾き度100%の時の0.6MPaの蒸気の比エンタルピーは、蒸気表から2755[kJ/kg]だとわかります。等エンタルピー変化するので、減圧後の0.2MPaの蒸気も2755[kJ/kg]の熱量を保有することになります。
蒸気表を見てみると、0.2MPaの飽和蒸気の全熱は2706[kJ/kg]になっています。
では、この差49kJはどのようにエネルギーとして保有されるのでしょうか?
この場合、飽和蒸気として保有できないので、温度上昇のエネルギーとして使用され、過熱蒸気になります。
飽和蒸気より何℃高くなるのかを調べるためには、「過熱蒸気表」(外部リンク)を用います。これによると、0.2MPaで200℃の過熱蒸気の比エンタルピーは2870[kJ/kg]となっています。
この情報から簡易的に、0.2MPaの過熱蒸気の比熱を2.1kJ/kg℃と仮定すると、上昇する温度は
となります。
よって減圧後の0.2MPaの過熱蒸気の温度は飽和温度を足した値の143.5℃になります。この時の過熱度は23.3℃ということになります。
過熱蒸気についてはこちらの動画がわかりやすいので載せておきます。
2. まとめ
この記事のポイント
蒸気を減圧するときは等エンタルピー変化する。
それにより次のような変化を起こす。
- 湿り蒸気の場合⇒乾き度が向上する
- 乾き蒸気の場合⇒過熱蒸気になる
今回はいろいろと仮定を置いて計算しましたが、実際には乾き度を測定することは難しいので、センサーなどで取得した温度から逆算するなどの検討が必要です。