先日読者の方から「蒸気の圧力を下げると省エネになるのはなぜか教えてほしい」という質問をいただきました。
そこで、今回はその回答を記事にしてみたいと思います。
蒸気の圧力を下げると省エネになるといわれる理由
熱交換器に供給する蒸気の圧力を下げると省エネになるといわれる理由は「圧力を下げた方が潜熱が増加するから」です。
熱交換器を用いた間接加熱では、被加熱物を加熱するのに使用するのは蒸気の潜熱です。交換熱量を加熱している蒸気の潜熱で割ると蒸気使用量が計算できますが、分子の潜熱が大きくなることにより使用量が小さくなるというわけです。
但し、これはあくまで熱交換器単体での話なので発生する復水の熱量を全量回収出来ている場合にはあまり効果がありません。また、余程圧力の下げ幅が小さくない限りは省エネ効果は小さいので、有効な策かどうかは微妙なところです。
加えて、蒸気圧力制御の場合は効果がありますが、被加熱物の出口温度制御の場合は蒸気の温度は成り行きになるので効果はありません。
圧力が下がれば潜熱が上がるというのは蒸気表で確認することが出来ます。
蒸気の圧力を下げることによるデメリット
一方、蒸気の圧力を下げることによるデメリットもあります。
比体積が大きくなり流速が大きくなる
蒸気は圧力が下がると比体積が大きくなるので、同じ配管径で同じ量を流そうとすると流速が大きくなります。これにより配管の摩耗が進んだり、圧力損失が大きくなり、欲しい圧力が末端で得られなくなります。
熱交換器選定時の仕様より蒸気の圧力を下げる場合は、下げても問題ないか確認が必要です。
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熱交換器、制御機器の能力が小さくなる
熱交換器の伝熱能力は伝熱面積A[m2]、熱貫流値K[kJ/m2h℃]、加熱物と被加熱物の温度差Δt[℃]で決まります。蒸気圧を下げると、加熱物の温度を下げることになるため、熱交換器の伝熱能力が低下することになります。
また、制御弁などの機器の選定は一次側圧力、二次側圧力、必要蒸気量によってされるので、一次側圧力が低下することにより供給できる能力が低下します。現状、能力に余裕があるかなど事前に確認が必要です。
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蒸気の圧力を下げるとどの程度省エネになるのか
実際に計算してみたいと思います。10℃の水10トンを60℃まで加熱するのに必要な蒸気量を0.3MPaGと0.6MPaGで比較します。
必要な交換熱量は水の比熱を4.186kJ/kgKとすると0.3MPaGの蒸気の潜熱は2133kJ/kg、0.6MPaGの蒸気の潜熱は2065kJ/kgなのでそれぞれ必要な蒸気量を計算すると次のようになります。
- 0.3MPaGの場合:981kg
- 0.6MPaGの場合:1014kg
よって0.3MPaGにした方が3.2%蒸気消費量が減るということになります。減圧幅が大きくなればなるほど、効果も大きいので一度条件を変えて計算してみてください。
まとめ
- 蒸気の圧力を下げると省エネになる理由は潜熱が上がるから。
- 流速が上がる、伝熱能力が低下するなどのデメリットもある。
- 効果は数%程度だが、熱を全て回収している場合は効果が薄い。
圧力が高い方が温度が高く熱量も大きいですが、復水として排出される熱量も大きくなるので、その分のエネルギーが無駄になるということです。
1つの考え方として参考にしていただけると嬉しいです。