以前の記事で、真空ポンプの種類について解説しましたが、「どうやったら真空が生み出されるのか」という原理的な面での解説が足りていなかったように思います。
今回は、真空ポンプの種類別に、真空状態を作り出す原理を詳しく解説していきたいと思います。
真空のはじまり
真空ポンプ、ではありませんが、真空の作り方として最も初期の活用例をご紹介します。
産業分野で最も初期の蒸気機関として知られる、ニューコメン機関をご存知でしょうか?
トーマス・ニューコメンは産業革命の中心的存在であった、ジェームス・ワットよりも前に蒸気機関を発明し、実用化した人物です。
ニューコメン機関は、シリンダ内の蒸気を冷却することで凝縮し、得られた真空でピストンを引き込む動力で、水などを汲み上げる機関です。真空を作ることそのものが目的ではありませんが、真空を活用した水用ポンプとして1700年代初旬から1900年代初旬まで使われていました。
参考:原理を説明した動画(英語)です。
現代に再現したニューコメン機関の動画です、技術屋としては興奮しますね!
真空ポンプの原理
現代に利用されている真空ポンプの原理を種類別に解説します。
機械式
前回の記事で、機械式のポンプはモーターの回転運動を用いると書きましたが、機械式の真空発生原理の本質は、ピストン運動による間欠的な吸引と放出です。
注射器の動きが一番わかりやすいですが、
- シリンダーの容積を広げることで気体を引き込む。
- 吸引側の弁を閉め、放出側の弁を開く。
- 排気場所に向けて気体を押し出す。
ということを繰り返しています。
この原理を利用したものの代表が油式ポンプで、弁の開け閉めの役割は、シリンダー内のベーン(vane、羽の意味)が担っています。気密性を高めるため、油が使われています。
油式ポンプの構造を解説した動画(英語)です。3:16あたりから内部のシリンダーとベーンの動きの説明があります。
ダイヤフラム型ポンプの構造・原理の動画です。
こうした原理のため、気密が破れるような状態、例えばオイルの劣化や、弁の開閉不具合が起こると、能力が低下します。
運動量移送式
気体に運動量を与え、真空を作り出す真空ポンプの原理を運動量移送式と呼びます。これには主にエジェクター(ベンチュリ)ポンプと、ターボ分子ポンプが該当します。
原理の本質は、気体に連続的な流れを作り、圧縮させ移動させるというものです。
エジェクターは、化学分野ではアスピレーターと呼ばれますが、3方向に接続部のある配管です。高圧で流れる流体(気体でも液体でも可)のラインに、細くなった部分があり、ここでは流速が上がるため圧力が低下します(ベンチュリ効果)。
この部分に吸引したい流体のラインを接続することで、陰圧を作り出すことができます。気体ラインを配管すれば、真空ポンプとして用いられます。
エジェクターの構造と気体・液体の流れが分かり易い動画(英語)を見つけましたので、ぜひ参照ください。
他のタイプと大きく異なる点が、到達真空度が高圧側の液体の温度に依存することです。例えば25℃の水であれば、対応する飽和蒸気の圧力である約-0.097MPaが最大到達真空度です。
もう一つのターボ分子ポンプは、内部の何重ものタービン翼が高速で回転することで、気体分子を圧縮し排気する構造をしています。
内部構造を紹介した以下の動画(英語)が分かり易いです(0:46から内部の説明)。
ちなみにターボ分子ポンプは、高真空を作り出すための用途に使われ、中真空までは他の真空ポンプと組み合わせて使用されます。タービン翼が多くあるため、高価で、かつ破損しないよう注意が必要です。
溜込式
最後に溜込式ですが、原理的には気体の状態変化により化学的に容積を小さくするという手法がとられています。
気体が凝縮・吸着することで、空間から気体そのものがなくなります。冒頭の、ニューコメン機関もこの原理に該当しますね。
そのうちクライオポンプは気体を冷却したパネルに接触させることで、液化・固化させ、対象の空間の気体を除去する方法です。
気体の種類ごとに凝縮・凝固温度が異なるので、段階的に温度圧力が下げられていきます。超高真空を作ることができるポンプとして、活用されています。
まとめ
- 真空利用の始まりは産業革命より前のニューコメン機関。
- 真空を作り出す原理は、ポンプの型式によって異なる。
- ピストン運動による排出、運動量を与えて輸送、凝縮・吸着を利用する3タイプがある。
今回はどうやったら真空を作り出せるのかという、原理的な面にフォーカスして解説しました。
到達真空度や、メンテナンス性にも関わってきますので、ぜひ学んでみてください。