熱力学

【熱力学】エンタルピーって何?内部エネルギー、エントロピーとの違いは?

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エンタルピーと聞くと何を思い浮かべますか?

  • 物体の持つエネルギー量・・・
  • エントロピーとは全く別の概念・・・
  • 難しい数式で表されて良くわからないもの・・・

そんなイメージを持っている人も多いのではないかと思います。

確かに熱力学の教科書を読むと最初の方に何やらよくわからない数式とエンタルピーが一緒に出てきて頭が混乱してきます。でも、実際にはエンタルピーは工業系の実務で使えるとても便利な考え方なのです。

今回はそんなエンタルピーがどんな場面で利用されているのかについてイラストや動画を交えながら解説してみたいと思います。

こちらの記事は動画でも解説しているので、動画の方がいいという方はこちらもどうぞ。

エンタルピーとは?

エンタルピーは物体が持つエネルギーの総量で単位はkJ(キロジュール)やkcal(キロカロリー)です。また、単位質量当たりの物体の持つエネルギーは比エンタルピーと呼ばれkJ/kgで表されます。工業分野では後者の比エンタルピーが良く利用されます。

エントロピーとは名前が似ているので混同しがちですが、まったく別の考え方になります。

エンタルピーの語源はギリシア語のエンタルポー(温まる)だと言われています。

物体の持つエネルギーと聞くと、温度に大きく関係してくるというイメージですが、エンタルピーは温度だけではなく圧力や体積のエネルギーも含んでいます。

このような考え方から温度によって膨張、収縮する気体には2種類の比熱が存在します。

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熱力学では、温度のみで表されるエネルギーを内部エネルギー、圧力や体積などの仕事量も含んだエネルギーをエンタルピーと呼んで使い分けています。

熱力学は、その名の通り熱エネルギーを力学エネルギーに変換することが目的なので、温度エネルギーと圧力エネルギーの総量を表すことができるエンタルピーはとても便利な存在です。

エンタルピーはHという記号を使って表されることが多いです。

熱力学では、エンタルピーや内部エネルギーは状態量として扱われます。状態量は経路に限らず一義的に決まる値です。状態量についての詳しい内容はこちらの記事をご覧ください。

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エンタルピーの式

内部エネルギーに仕事を加えたものがエンタルピーということになります。エンタルピーを式に表すと次のようになります。

$$H=U+PV$$

H:エンタルピー[J]
U:内部エネルギー[J]
P:圧力[Pa]
V:体積[m3]

温度を表す内部エネルギーと圧力エネルギーを足し合わせたものなので、熱機関などの動きを考える際に非常に便利になります。

内部エネルギーやエンタルピーの考え方についてはこちらの動画でもわかりやすく解説されています。

エンタルピーを使用して、効率などを計算するものをまとめていますので合わせてご覧ください。

エンタルピーの使い方

熱力学の最初の方に出てくるエンタルピーですが、工業分野ではエンタルピーの導出よりもその数値の意味と使い方が重要になります。

実際にはどのような場面でエンタルピーの値が使われるのでしょうか?

燃料のエンタルピー

燃料にはそれぞれ単位質量当たりの熱量が決められています。これを低位発熱量や高位発熱量と呼びます。

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燃料を酸素と反応させて燃焼させると熱が発生し、この熱が蒸気やガスのエンタルピーになります。燃料の熱量を計算する際には一般的に低位発熱量が利用されます。

燃料のエンタルピーは、蒸気やガス、電気などの単位熱量当たりの価格、熱量単価を計算するときに利用されます。

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蒸気のエンタルピー

飽和蒸気の比エンタルピーは蒸気表で確認することが出来ます。温度や圧力によって比エンタルピーの値が決まっています。

蒸気のエンタルピーは、被加熱物を加熱するときに必要な蒸気量を計算するとき蒸気タービンなどを用いて発電する際に利用されます。

タービンの場合は、入り口と出口の蒸気のエンタルピー差のことを熱落差と呼びます。

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また、蒸気は減圧弁などで圧力を調整することで温度を一定に保ちますが、減圧や絞りは等エンタルピー変化と呼ばれ、乾き度などを計算する際にもエンタルピーは利用されます。

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空気のエンタルピー

空気のエンタルピーは湿り空気線図などで利用されます。

湿り空気線図は、ある温度の空気が保有することができる水分量を表しており除湿、乾燥などについて考える際に利用されます。

湿り空気線図(しめりくうきせんず、Psychrometric Chart)とは線図上に、乾球/湿球温度/露点温度、絶対/相対湿度、エンタルピーなどを記入し、その中から2つの値を求めることにより、湿り空気の状態が分かるようにした線図のことである。 空気線図、湿度線図とも言う。

湿り空気線図といえば、主に「湿り空気h -x 線図」の事を指すのが一般的になっている。空気の状態や熱的変化知るのために、主に用いられる。(Wikipedia「湿り空気線図」

温水のエンタルピー

水の温水のエンタルピーは温度によって変わります。水も若干の体積変化がありますが、微量なので比熱一定で考えることが多いです。

例えば、比熱4.19kJ/kgKとすると、1kg、80℃の温水のエンタルピーは次の式で表されます。

$$1[kg]×4.19[kJ/kgK]×(353-273)[K]=335[kJ]$$

水の膨張についてはこちらの記事をご覧ください。

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エンタルピーと内部エネルギーの違い

エンタルピーと内部エネルギーはどちらも物体のエネルギーを表す指標で、単位が同じなので同じものだと勘違いしてしまうことも多いのではないでしょうか?

式を交えて、エンタルピーと内部エネルギーの違いについて考えてみましょう。

まず、エンタルピーと内部エネルギーの違いは仕事を含むか含まないかです。仕事を含まないほうが内部エネルギー仕事を含むほうがエンタルピーです。

もう一度内部エネルギーの式を見てみます。

$$H[J/kg]=U[J/kg]+P[Pa]・V[m3]$$

H:エンタルピー[J]、U:内部エネルギー[J]、P:圧力[Pa]、V:体積[m3]

PV=W(仕事)とすると

$$H[J/kg]=U[J/kg]+W[J/kg]$$

内部エネルギーは熱に関するエネルギーエンタルピーは熱と仕事両方を足し合わせたものということになります。

例えば、空気の入った風船に熱を与えると、中の空気の温度が上昇すると同時に膨張して膨らみます。

この時、膨らむための仕事を含んだものがエンタルピー、温度上昇のみのエネルギーが内部エネルギーというイメージです。

エンタルピーと内部エネルギーの計算例

ネット上に内部エネルギーとエンタルピーの違いについてわかりやすい問題があったので解いてみたいと思います。

標準状態において、100℃の水が蒸発して100℃の蒸気になるときの内部エネルギーとエンタルピーの変化量を求めなさい。

水の比体積:0.001m3/kg、蒸気の比体積:1.694m3/kg、蒸発潜熱:2257kJ/kg

これを解くと次のようになります。

解答

潜熱は水が蒸気に変化するために必要なエンタルピーを表しています。

よって

$$ΔH=2257[kJ/kg]$$

次に内部エネルギーを表す式は、

$$ΔU=ΔH-PΔV$$

$$ΔV=1.694-0.001[m3/kg]$$

ここで、ΔH=2257[kJ/kg]、P=1.0×10^5[Pa]、ΔV=1.693[m3/kg]より

$$ΔU=2087[kJ/kg]$$

よって内部エネルギー変化は2087kJ/kg、エンタルピー変化は2257kJ/kgということになります。

エンタルピーは内部エネルギーに仕事を加えたものなので、エンタルピーの方が大きくなっていますね。体積が一定の場合はΔVが0になるので、内部エネルギーの変化量とエンタルピーの変化量は等しくなります。

話としては、定圧比熱と定容比熱の違いについての考え方と似てますね。

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エンタルピーとエントロピーの違い

エントロピーは物体の「乱雑さ」を表す指標です。熱量を温度で割ったkJ/K(キロジュール/ケルビン)で表されSという記号が使われます。こちらもエンタルピー同様に単位質量当たりのエントロピーは比エントロピーと呼ばれます。

例えば、水の比熱を先程と同様に4.2kJ/kgKとすると10℃の水の比エントロピーは0.148kJ/kgKとなります。

$$\frac{4.2×10}{(273+10)}=0.148$$

この水を加熱して30℃まで昇温した場合を考えてみましょう。この場合、30℃の水の比エントロピーは0.415kJ/kgKという事になります。

$$\frac{4.2×30}{(273+30)}=0.415$$

温度というのは水の分子運動であらわされるので、加熱されて昇温した水は分子の動きが早くなった分「乱雑さ」が増加したという事になります。

水蒸気の場合を考えてみます。

0.1MPaGの飽和蒸気は蒸気表より温度が120℃、比エンタルピーが2706kJ/kgと分かります。ここからエントロピーを計算すると6.88kJ/kgKになります。

$$\frac{2706}{(273+120)}=6.88$$

水の状態と比べると気体になった分「乱雑さ」が増大しています。

同様に、0.5MPaGの飽和蒸気では温度が158.9℃、比エンタルピーが2756kJ/kgなのでエントロピーは6.38kJ/kgK。

$$\frac{2756}{(273+158.9)}=6.38$$

1.0MPaGでは温度が184.1℃、比エンタルピーが2780kJ/kgなのでエントロピーは6.08kJ/kgKになります。

$$\frac{2780}{(273+184.1)}=6.08$$

こうしてみると、飽和蒸気は圧力が大きくなればエンタルピーは小さくなっていきます。これは、圧力が高くなると比体積が小さくなる分、存在できる範囲が狭まって「乱雑さ」が小さくなるからだと言えます。

例えると、「ぐちゃぐちゃに散らかった大きな部屋」と「同様に散らかった小さな部屋」では前者の方が「乱雑さ」が大きいというイメージです。

等エンタルピー変化と等エントロピー変化

熱力学の本を読んでいると「等エンタルピー変化」「等エントロピー変化」というものが出てきます。

これは、何かしら変化を起こすときに「同じエンタルピー」のまま流れていくのか「同じエントロピー」のまま流れていくのかの違いです。

等エンタルピー変化

等エンタルピー変化は、前後で流体のエンタルピーが変化しないことを言います。例えば、気体の前後圧力を調整するバルブ(減圧弁)を通る時を考えます。

この時、バルブの前後では圧力は変化しますが、エンタルピーは変化しません。なぜならただ通っただけで外部に何も仕事をしていないからです。

例えば、1.0MPaGの飽和蒸気を0.5MPaGまで減圧した場合を考えてみましょう。

バルブの一次側は1.0MPaGの飽和蒸気なので2780kJ/kg、温度は184℃でこの時のエンタルピーは6.08kJ/kgKです。

$$\frac{2780}{(273+184.1)}=6.08$$

これを0.5MPaGまで減圧した場合、バルブの前後でエンタルピーが変化しないので、二次側は0.5MPaG、169℃の過熱蒸気になり、この時のエントロピーは6.29kJ/kgKになリます。

減圧のような絞り膨張の場合、エンタルピーは変化しませんがエントロピーは増加するという事が分かります。

※ 実際にはバルブと流体の摩擦などで若干エンタルピーは減少します。

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等エントロピー変化

一方、等エントロピー変化はエンジンやタービンなどを流体の力で動かすときに利用されます。理想的な熱機関では流体のエネルギーは全て仕事として出力されると仮定します。

この時、熱機関の前後では外部との熱のやり取りがなくエントロピーは変化していないとみなします。

※これもエンタルピーと同様、実際には接触部で機械的な摩擦損失などがあるので等エントロピーにはなりません。

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まとめ

  • エンタルピーは物体の持つエネルギー
  • 温度エネルギーと圧力エネルギーを足し合わせたもの
  • 燃料、蒸気、空気など様々なところで利用される
  • エンタルピーと内部エネルギーの違いは仕事を含むか含まないか
  • エントロピーは熱量を温度で割った値で「乱雑さ」を表す。
  • 等エンタルピー変化は絞り等、等エントロピー変化はタービンなどの熱機関で利用される。

エンタルピーは燃料から動力エネルギーを生み出す熱機関では必須の考え方になります。

教科書の最初の数式を見て苦手意識を持っている方も多いかと思いますが、実際にはよく使われる便利な指標なのでぜひ有効に活用していきましょう。

↓ この記事はこちらの参考書をもとに作成しています。伝熱に関して詳しくなりたいという方にお勧めです。

 

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エコおじい

プラントエンジニアです。2017年から工業技術に関する情報をまとめて発信しています。最近、Youtubeも始めました。応援していただけるという方は更新情報などを発信するので、Twitterのフォローお願いします。

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