飽和温度近くの流体をポンプで圧送する場合、ポンプでキャビテーションが発生しないように考慮する必要があります。
その時、検討しなければいけない項目にポンプの有効流入水頭(NPSHa)というものがあります。今回は、ポンプの流入水頭はどのようにして計算するのか解説してみたいと思います。
1. 流入水頭とは?
水頭とは、水の持つ圧力などのエネルギーを水の高さ(m)で表したものです。例えば大気圧での水頭は0.1MPaなので約10mになります。
ポンプを選定する際には必要流入水頭(NPSHr)と有効流入水頭(NPSHa)の2つを考慮しなければいけません。必要流入水頭(NPSHr)とは、ポンプでキャビテーションが発生しないように必要なポンプ手前の水の押し込み圧力のことを言います。
例えば、飽和温度近くの水が流入水頭3mと言われれば、ポンプの手前側で配管を3m立ち上げる必要があるということになります。ポンプへの流入水頭が高ければ高いほど、ポンプの安全性は高まります。
一方、有効流入水頭(NPSHa)とは、ある設置状況でポンプの流入水頭として有効な水頭のことを言います。NPSHrとNPSHaの関係性がキャビテーション発生の有無を左右します。
2. 有効吸込ヘッド(NPSHa)と必要吸込ヘッド(NPSHr)
ポンプでキャビテーションが発生しないためには、有効吸込ヘッドがそのポンプの必要吸込ヘッドを上回らなければいけません。
式に表すと次のようになります。
$$NPSHa>NPSHr$$
必要吸込ヘッドはポンプによって決められています。では、有効吸込ヘッドはどのように計算するのでしょうか?
2-1. 有効吸込ヘッドの計算方法
有効吸込ヘッドの計算は次の式で表すことが出来ます。
Pa:液面にかかる圧力[MPa]
Pv:液体の飽和圧力[MPa]
ρ:液体の密度[kg/m3]
g:重力加速度[9.8m/s2]
Hs:液面から吸込み口までの高さ[m]
Hfs:吸込配管の圧力損失[m]
少し複雑に見えますが、要はポンプに押し込む方向をプラス、ポンプから離れる方向の力をマイナスにして計算しているだけです。
例えば次のような計算をしてみましょう。
大気圧で80℃の水3mの高さからポンプに流入させた場合、有効吸込ヘッドはいくらか?
この場合、大気圧なのでPa=0.1MPa 80℃の飽和圧力はPv=0.047MPa 液体の密度ρ=1000kg/m3 Hs=3m Hfsは無視していい程度小さい場合が多いのでHfs=0mとします。
これを上の式に代入すると8.4だということがわかります。なのでこの場合の有効吸込ヘッドは8.4mということになります。これがポンプの必要吸込ヘッドよりも大きければキャビテーションが発生しないということになります。
3. キャビテーションが発生すると?
キャビテーションとは、飽和温度近くの流体がポンプ内でかき回されることによって圧力が下がり一部が気化し、その気泡がはじけることでポンプに衝撃を与える現象です。
ポンプでキャビテーションが発生すると、十分な能力が出ないだけでなく、ポンプ内を振動させたり、インペラを破壊したりします。
ポンプを選定する上で絶対に考慮しなければいけない項目になります。
4. まとめ
- キャビテーションを防ぐにはNPSHaが必要
- NPSHa>NPSHrにしなければいけない
- キャビテーションが発生するとポンプが故障する
NPSHについての考え方が慣れないうちは難しいですが、意味が分かればそこまで難しい式ではありません。みなさんもポンプを選定する際にはNPSHを十分に考慮して失敗のないようにしましょう。