導体の抵抗特性を表す指標として、抵抗温度係数と抵抗率があります。
それぞれ導体の電気の流しにくさを表す指標ですが、考え方が似ているため混同してしまいます。今回は抵抗温度係数と抵抗率の違いについて解説したいと思います。
抵抗温度係数とは
抵抗温度係数は、導体の温度が1℃変化したときの抵抗値の変化割合を指します。英語ではTemperature Cofficient Resistanceといい略してTCRで表されます。
記号はαで表され、単位は「ppm/℃」です。ppmはparts per millionの略で百万分の一(10^-6)を表します。
一般的に導体の電流は電子の移動によって行われます。導体の温度が高くなれば、原子の熱運動が激しくなり、電子の移動を妨げるため抵抗値が高くなる傾向があります。
抵抗R1の導体が温度t1[℃]からt2[℃]に変化した場合の抵抗温度係数を式で表すと次のようになります。
$$R_2=R_1[1+α_1(t_2-t_1)]$$
R2:温度変化後の抵抗[Ω] R1:温度変化前の抵抗[Ω]
一般的に、金属の場合は抵抗温度計数は正を示し、半導体の場合は負を示します。これは半導体は温度が負の電荷を持つ電子と正の電荷を持つ正孔の移動によって電気伝導が行われ、温度が上昇すると電子、正孔の濃度が大きくなるためです。
抵抗器の場合は、温度に関わらず常に一定の抵抗を示す必要があるので抵抗温度係数は低い方が精度が高いということになります。一般的な抵抗器で10~1000[ppm/℃]程度で、高精度なものは1~5[ppm/℃]程度の物もあります。
温度によって抵抗が変化することは、電子回路にとって厄介ですが、この原理を利用して抵抗値から温度を測定する白金測温抵抗体やサーミスタなどのセンサーもあります。温度センサーについてはこちらの記事で解説しているので、興味のある方はご覧ください。
【温度センサー】原理は同じ!サーミスタと白金測温抵抗体Pt100の違い、使い分けは?
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抵抗率とは
抵抗率とは導体の断面積1㎡、長さ1m当たりの抵抗値を表します。抵抗率は密度と同様に「ρ(ロー)」で表され、単位は「Ωm(Ωメートル)」です。抵抗率には単位面積当たりの抵抗値を表す表面抵抗率もありますが、厚みによって変化するため、抵抗率=体積抵抗率として考えるのが一般的です。
抵抗率は物質固有の値で、一定電流を流して電極間に発生する電位差を測定することで求めることが出来ます。
断面積A[㎡]、長さL[m]あたりの導体の抵抗を式で表すと次のようになります。
$$R=ρ\frac{L}{A}$$
抵抗率は高ければ高いほど電気を通しにくいということになります。
一方、抵抗率の逆数を取ったものを「導電率(s/m)」と呼びます。導電率は記号「σ(シグマ)」で表され高ければ高いほど電気を通しやすくなり式に表すと次のようになります。
$$σ=\frac{1}{ρ}$$
断面積A[㎡]、長さL[m]あたりの導体の抵抗を導電率を用いて表すと次のようになります。
$$R=\frac{L}{σA}$$
導電率についてはこちらの記事でも解説していますのでよろしければどうぞ。
【計測機器】導電率とは?導電率計の原理や注意点について
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導体の抵抗温度係数と抵抗率
一般的な導体の抵抗温度係数と抵抗率を比較してみます。
物質の種類 (at 0℃) | 抵抗温度係数α (ppm/℃) | 低効率ρ (10^-8 Ωm) |
---|---|---|
銅 | 4400 | 1.55 |
鉄 | 6500 | 8.9 |
タングステン | 4900 | 4.9 |
ニクロム | 210 | 107 |
導線としても利用される銅は鉄に比べ抵抗率も抵抗温度係数も低いことが分かります。また、ニクロムは温度変化に強く抵抗率も大きいため電熱線などに利用されます。
このように、抵抗温度係数と抵抗率は似ているようですが、それぞれ別の性質を表し、用途ごとに適正な金属が変わります。
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まとめ
- 抵抗温度係数は、導体の温度が1℃変化したときの抵抗値の変化割合。
- 抵抗率とは導体の断面積1㎡、長さ1m当たりの抵抗値。
- それぞれ別の性質を表し、用途ごとに適正な金属が変わる。
抵抗温度係数と抵抗率は考え方が似ているので混同しがちですが、意味や使い方は全く違うので注意が必要です。
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