電気

【電気】電気加熱とは?7種類の原理、特徴を解説

産業分野において、ものを加熱する工程はほとんど全ての現場にあるのではないでしょうか。

スケールアップを計画するときや、抜本的な時間短縮・省エネルギーを検討する際には、加熱方法から見直すということも少なくないと思います。

今回は、電気加熱について全体的に理解したい人向けに記事をまとめました。

電気加熱とは

電気加熱は熱エネルギーを伝えるのに、電気を使う、酸素を使わない加熱手法と定義できます。

供給された電気エネルギーを、次の項目で紹介するいくつかの方法で熱に変換します。一般的な火力発電所の発電効率は40%程度とされているので、重油やガスを燃焼するのと比べると、包括的なエネルギー効率は低いと言えます。

一方で、燃料に比べて輸送がしやすく、どこにでも素早く供給できることから小回りが効く加熱方法でもあります。

加熱効率の比較についてはこちらの記事をご覧ください。

【ヒートポンプ】蒸気、電気、ヒートポンプ、ガスで最もお得な熱媒はどれ?

続きを見る

電気加熱のメリット

電気加熱のメリットは一般的に、次のように言われています。

  • 数千℃レベルの高温を作りやすい
  • 温度制御、調整が比較的容易
  • 部分加熱、選択加熱が可能
  • 局部加熱、急速加熱が可能
  • 燃焼による排ガスなどが出ない

しかし、次項の7種類を読んで頂くと分かるように、一概には言えません。また、加熱の用途や加熱対象物の種類によっても、選択できる方式は限られてきます。

電気加熱の種類

ここからは電気加熱の種類について、原理とともに説明していきます。

抵抗加熱

ものに電流を流した時に発生する抵抗熱(ジュール熱)を利用します。これは光る電灯が熱くなる現象と同じで、加熱用途では発生した熱を利用します。家庭でも、ヒーターやポットなど多く用いられています。

他の手法と比較していただきたいのですが、使用する電気エネルギーと発生する熱エネルギーがほぼ同じ(可視光等への損失あり)で、かつ加熱器本体が高温になります。

アーク加熱

溶接現場で使われるような高温で、閃光を伴う加熱方法です。アーク放電を利用することに由来します。

電極(黒鉛)に高電圧をかけて、電極間に大きな電位差を生じることで、大気中の気体が電離し、高温が生じます。そのため原理的には気体の抵抗加熱とも言えます。

使用する電気エネルギーと発生する熱エネルギーがほぼ同じ(可視光等への損失あり)で、かつ加熱器(ここでは電極)が高温になります。

【電気】アーク加熱と抵抗加熱の違い、使い分けは?

続きを見る

誘導加熱

電磁誘導によって発生する電流による抵抗熱を利用します。金属コイル内に金属などの誘電体が入った構造で、電流を流した時に発生する磁場による誘導電流で、抵抗熱を発生させるという方式です。

IH調理器などに用いられています。

使用する電気エネルギーと発生する熱エネルギーがほぼ同じで、加熱器本体は高温にならないものもあります(コイル本体のジュール熱や、被加熱物からの伝熱で熱くなるのですが、温度制御の対象ではありません)。

誘電加熱(マイクロ波)

電極間にある絶縁体に交流の高周波電圧を加えると、内部の電子の向きが交互に入れ替わり、摩擦による熱が生じた熱を利用します。

電磁波の中で、特定の周波数(300MHz〜30GHz)を用いるものをマイクロ波加熱と呼び、いわゆる電子レンジもこれに該当します。

使用する電気エネルギーと発生する熱エネルギーがほぼ同じで、加熱器本体ではなく加熱対象の内部から発熱します。余分な放熱が抑えられ、加熱効率が高いと言えます。被加熱物に金属が含まれると放電を起こす場合があり、加熱の際には注意が必要です。

赤外加熱

電磁波の中でも赤外線を発生させる加熱方法です。赤外線は吸収されやすい(熱を与えやすい)電磁波で、用途によって近赤外・遠赤外線といった波長の異なる赤外領域光が用いられています。

ハロゲンヒーターや食品加熱用途にも用いられています。

使用する電気エネルギーと発生する熱エネルギーがほぼ同じですが、赤外放射として使えるのは6〜9割(波長によって異なる)だそうです。加熱器本体が熱くなりますが、温度制御の対象ではありません。

レーザー加熱

レーザー光が被加熱物の表面に吸収され、熱に変換されることで加熱する手法です。

レーザーとは、特定の周波数のことではなく、波長が一定方向で位相が揃った状態の電磁波を意味する言葉です。

英語ではLight Amplification by Stimulated Emission of Radiation(直訳すると、放射の誘導放出による光増幅)と言い、略してLASERです。

産業分野の加熱にはCO2やYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネットの略)などがレーザーとして用いられますが、どちらも可視光より波長が長く、目に見えません

「温める」というよりは、「焼き切る」など加工用途として多く用いられ、医療用メスにも使われています。

使用する電気エネルギーに対するエネルギー変換効率は数%、高いものでも30%程度です。加熱器本体は熱くなりますが、温度制御の対象ではありません。

ヒートポンプ加熱

低いところから高いところに熱を移動させる「ポンプ」として、エアコンなどに用いられている方式です。産業分野でも給湯や空気加熱の用途で使われています。過去の記事に詳しく解説していますのでご覧ください。

仕組みとしては、電気を使ってポンプを動かし、熱媒を循環させ膨張・圧縮を繰り返すことで、大気や排熱源などから熱エネルギーを奪い被加熱物に与えます

一般には高温は苦手な装置ですが、170℃程度まで対応した製品もあるようです。

使用する電気エネルギーに対して、数倍(3〜6程度が一般的な範囲でしょうか)の熱エネルギーを得ることができます。また加熱器本体(熱媒)が熱くなります。エネルギー効率は高いですが、万能ではありません。

【ヒートポンプ】省エネ機器といわれるのはなぜ?原理や用途を徹底解説

続きを見る

まとめ

  • 電気加熱は電気を使い、酸素を使わない加熱手法。
  • 電気加熱は温度範囲、操作性において利点が大きい。
  • 多くの加熱方式があり、目的・用途によって適切な方法を選択する。

実際に新しく加熱方式を検討する際には、加熱設備のタイプから考え直すこともあると思います。

また現場のユーティリティや、初期投資額、メンテナンス費も含めた検討が必要になるでしょう。上記を参考になさってください。

電気

2024/8/15

【電気】熱電素子とは何か、種類や原理、活用事例について解説します

熱電素子は、熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換する技術で、エネルギー効率の向上や省エネルギー化に重要です。この技術は、エネルギーの再利用や温度制御など、さまざまな分野で活用されており、今後の持続可能な社会の実現に重要な役割を果たすと期待されています。 本記事では、熱電素子の基本概念、種類、原理、および具体的な活用例について詳しく解説します。 熱電素子とは 熱電素子とは、温度差を利用して電気エネルギーを生成したり、逆に電気を流すことで温度差を作り出したりする半導体素子のことです。この技術は、ゼーベック ...

ReadMore

電気

2022/7/31

【電気】シリコンドロッパとは何か?設置する目的について

UPSなどの非常用の蓄電池を設置する制御盤の中には良くシリコンドロッパという機器が設置されています。 この記事ではシリコンドロッパとは何か、設置する目的について解説します。 シリコンドロッパとは シリコンドロッパは直流電圧を降下させる機器で、蓄電池などを設置する場合などに利用されます。シリコンダイオードの電圧降下が電流に関わらず一定であるという特性を利用しています。 一般的にプラントの電気設備では、停電時などに設備を停止させないように制御用電源としてUPS(無停電電源装置)等が設けられています。ただ、UP ...

ReadMore

電気

2022/6/3

【電気】相電圧と線間電圧、相電流と線間電流の違いを徹底解説

三相交流回路の特徴の一つとして相電圧、線間電圧、相電流、線電流というものがあります。これらは結線方法によってそれぞれ特性が変わりますが、ただ単に特性を暗記するだけではそれぞれの特性を混同してしまします。 この記事では、相電圧と線間電圧の違い、相電流と線電流の違いについて解説します。 相電圧・線間電圧、相電流・線電流の違い 相電圧・線間電圧、相電流・線電流の違いを一言で表すと次のようになります。 相電圧:一相にかかる電圧 相電流:一相に流れる電流 線間電圧:電源と負荷を結ぶ電線間の電圧 線間電流:電源と負荷 ...

ReadMore

電気

2021/12/19

【電気】磁力線と磁束の違いとは?

電気の勉強をしていると電気、磁気で似ているような言葉が多く出てくるので分かりにくいですよね。 今回は、磁気の中でも概念が似ている磁力線と磁束の違いについて解説したいと思います。 こちらの記事は動画でも解説しているので、動画の方がいいという方はこちらもどうぞ。 磁力とは まず、磁力とは磁界の間に働く力のことを言います。磁極が異なる場合は吸引力が働き、磁極が同じであれば反発力が働きます。 上の図のように磁荷m1[Wb](ウェーバー)とm2[Wb]の物体があった場合、それぞれに働く磁力は次の式で計算することが出 ...

ReadMore

電気

2021/8/29

【電気】コンデンサと電界の関係を解説します

コンデンサに電荷がたまると極板間には電界が発生します。 電界は極板間の距離と電圧によって決まってくるのですが、コンデンサの電気容量も距離が関係してくるなど複数の要素が絡みあっているので分かりにくいと感じる方も多いのではないかと思います。 今回は、コンデンサの電界の強さについて解説したいと思います。こちらの記事は動画でも解説しているので、動画の方がいいという方はこちらもどうぞ。 電界とは 電界とは静電力が働く空間のことです。電荷の周囲には電界が生じ、電界の中に電荷を置くと引っ張られたり押されたりします。 電 ...

ReadMore

  • この記事を書いた人

エコおじい

プラントエンジニア兼Webライターです。「工業技術をどこよりも分かりやすく解説する」をテーマに2017年からブログ、Youtubeで情報発信をしています。ライティングなどのお仕事のご相談はXのDMからお願いします。

効率的に技術系資格取得を目指す方必見!当サイトおすすめの通信講座

最短で資格を取得するためには、いかに効率よく学習するかが最も重要です。

参考書だけでは分かりにくいという方には、全て解説動画で学べるSATの通信講座がおすすめです。日々の通勤時間など隙間時間を利用して無理なく効率的に学習を進めることが出来ます。

超シンプルで分かりやすいSAT『エネルギー管理士』

エネルギー管理士の通信講座です。イラストを多用したシンプルで分かりやすいテキストと動画がセットになっています。

他社と比較すると価格もお手頃で、特に熱力学などを学んだことのない初学者におすすめの通信講座です。

熱分野レビュー 電気分野レビュー 他社との比較

エネルギー管理士以外にも電験や衛生管理者など25の資格の通信講座を展開しています。

最短で電験取得を目指すならSAT『電気主任技術者講座』

イメージしにくい交流回路についても多様なイラストと解説動画で詳しく解説してくれます。独学ではなかなか勉強が進まないという方に特におすすめの講座です。電気について詳しく学べるので実務で電気を使うという方には最適な教材です。

電験三種レビュー 他社との比較

技術系資格の最高峰SAT『技術士合格講座』

論文添削やZOOMマンツーマン指導が付いており、面接対策もWeb上で行うことが出来ます。また、テキストは毎年改定されているので常に最新の教材で勉強することが出来ます。

-電気

エネ管.comをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む

© 2024 エネ管.com Powered by AFFINGER5