加熱のためのユーティリティとして蒸気を使われている現場は多いかと思います。蒸気には「乾き度(dryness)」という指標があるのはご存知ですか?
今回は乾き度とは何か説明します。また、複数ある乾き度計の測定原理についてまとめてみました。
乾き度とは
ボイラーで発生させた蒸気は、100%が水の気体というわけではありません。
配管からの放熱で、熱エネルギー損失をしているため上記の一部が液体の水(実際には細かな水滴かと思われます)になっています。
蒸気のうち何%が気体かを表す指標として、乾き度という言葉が用いられます。乾き度は以下の式で表されます。
$$x = \frac{Mv}{(Mv + Ml)} $$
x:乾き度、Mv:蒸気の質量、Ml:飽和水の質量
乾き度が低くても、同じ温度で加熱ができるのなら問題ないのでは?と思われるかもしれませんが、蒸気の優位点でもある潜熱による加熱の効率が下がってしまうことが知られています。
省エネ法の規制が厳しくなる中、工場のエネルギー管理はより精緻なエネルギーロス把握を求められます。乾き度はそうした指標の一つです。
また乾き度は、蒸気を直接噴霧する工程においても重要です。水滴が製品に付着し汚れやシミの原因となってしまうからです。
乾き度は蒸気が配管を通るだけで次第に下がっていきます。蒸気配管表面から待機に向けて放熱で熱が常に奪われているからです。この影響をできるだけ小さくするために、保温材は厚く、剥がれた場所のないように保守点検する必要があります。
また、減圧すると乾き度が上がります。詳しい原理は以下の記事に挙げています。
【蒸気】減圧すると乾き度が上がる?過熱になる?
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乾き度計の原理
乾き度計には主に3つの測定原理があります。
絞り熱量計
蒸気配管に膨張タンクを接続する、原始的なタイプです。配管とタンクをつなぐ管にはバルブで絞りを入れ、タンク側には温度計と圧力計を接続しておきます。
膨張タンクを保温剤で覆うことにより、タンク内では蒸気は断熱膨張し、過熱蒸気となります。
蒸気そのものは絞りでの膨張前後でエンタルピーは変わらないので、温度と圧力の関係からタンク内の蒸気比エンタルピーを求めることができます。
これを元の蒸気の非エンタルピー理論値で割ることによって乾き度を求めることができます。シンプルな構造で、測定原理もわかりやすいかと思います。
しかし膨張タンクが大型化すること、タンク内の蒸気が安定するまで正確に測定できないことから、瞬時の測定ができないことが欠点であまり用いられていません。
管底液相測定式*
乾き度が低い状態とは、蒸気の一部が凝縮し液相となっている状態です。液体は比重が大きいので配管の下部を流れます。
液体が配管底部を流れることによる「揺らぎ」を測定し、蒸気の圧力と温度との相関から乾き度を計算するというものです。
測定器自体に温度センサーが付属しており、蒸気の流量計の付属機能の一つといった形で使われています。説明が動画でありましたのでご覧ください(英語です)。
吸光度分析式*
蒸気と水では吸光度が異なることを測定原理とした乾き度計です。吸光度とは、文体に光が通った際にどれだけ弱まるかを表した指標です。
蒸気と水が混じった二相の場合の吸光度合いと、実際の乾き度に乾き度があることを利用して、乾き度を計算しています。
参考:アズビル株式会社 水蒸気エネルギー計測システム(外部リンク)
注意ポイント
*管底液相測定式と吸光度分析式には総称がなかったため、便宜的に名付けました。本サイトのみでの名称となりますのでご留意ください。
他にもボイラーの乾き度測定のために水質から逆算する方法もあるようです。
蒸気の測定器はいずれも高価ですし、装置毎に蒸気乾き度を測定するというのは現実的ではありません。年中稼働し、蒸気配管が長い現場で、放熱ロスなどの影響がどの程度あるか(省エネの余地がどの程度あるか)管理するために導入するというのが効果的な使い方ではないでしょうか。
まとめ
- エネルギー管理の上で、蒸気の乾き度は放熱ロス管理の上で重要な指標である
- 工場全体のエネルギー管理という観点で乾き度計の導入を検討する
今回は乾き度計の原理についてまとめてみました。導入を検討される際は、メーカー・代理店の技術者とよく相談することをお勧めします。