ポンプを選定する際に重要な指標としてNPSHがあります。
NPSHの考え方を間違えて、ワンポイントでポンプを選定すると非定常な運転時に異常が発生しポンプが故障するなどの事故につながります。この記事ではポンプのNPSHについて、考え方や計算方法を解説します。
NPSHとは
NPSHはNet Positive Suction Headの略でポンプを選定する際に、どの程度の流入水頭を確保できるかを示す指標で単位はm(メートル)で表されます。
NPSHにはNPSH available(有効吸込ヘッド)とNPSH require(必要吸込ヘッド)があり、ポンプが安全に運転を行う際には常にNPSH available(有効吸込ヘッド)がNPSH require(必要吸込ヘッド)を上回っている必要があります。
NPSH available(有効吸込ヘッド)は略してNPSHa、NPSH require(必要吸込ヘッド)はNPSHreqやNPSH3と表されます。
- NPSHa:有効吸込ヘッド
- NPSHreq:必要吸込ヘッド
必要吸込ヘッドはポンプごとに決まった値を持っており、ポンプメーカーが仕様書等に提示してくれるので、ポンプを選定する際は設置状況を考えながらどの程度のNPSHaを確保できるかが重要になります。
ポンプを安定運転させるという点ではNPSHaが大きいほど、またNPSHreqが小さいほど良いということになります。
実際の運転では仮に選定条件ではNPSHaがNPSHreqを上回っていても非定常な運転を行った際に一時的にNPSHaが低下し、キャビテーションが発生するという場合があるため、NPSHreqより十分に余裕を持った選定を行う必要があります。
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NPSHaの計算方法
NPSHaを3つの設置パターンに分けて考えてみます。NPSHaは次の式で算出することが出来ます。
NPSHa[m]=有効高さ+大気圧(内圧)ー蒸気圧ー圧力損失
圧力損失の計算方法については記載していませんが、考え方を理解して頂ければと思います。圧力と水頭の換算はこちらのページで確認できます。
NPSHaの計算方法①:吸込みの場合
まず、最もよく見るタンクが高所に設置されていてポンプがその下にある場合を考えてみます。
タンク内の水温を60℃として3m上部にタンクが設置されているとします。この時の考え方としてポンプが最も運転困難になるポイントを考慮する必要があるので、水位が想定できる最も低いところに来る場合を考えて有効高さを決めます。今回の場合はポンプの運転を止める低水位警報の場所を任意に決めています。
また、圧力損失を仮に1mとした場合、60℃の水の蒸気圧は20kPaなので、下のような計算からNPSHaは10mだと分かります。
この計算を見て分かるように、NPSHaが小さくなる要因としては次のような点が挙げられます。
NPSHaが小さくなる要因
- 設置高さが低い
- 圧送流体の温度が高い
- 周囲の圧力が低い
- 管路の圧力損失が大きい(流量が多い、圧損が大きい機器の設置)
つまり、内部流体の温度、粘度が高かったりポンプ入口にストレーナなどの保護機器を設置する場合は特に注意が必要です。
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NPSHaの計算方法②:吸上げの場合
次に吸上げの場合を考えてみます。基本的な考え方は吸込みと同じですが、高さがマイナスになるのでその分、NASHaは小さくなります。
タンク水温や圧力損失を同じ条件として3mの吸上げを考えた場合、次の式によりNPSHaは3mということになります。
NPSHaの計算方法③:大気圧以外の場合
最後にタンク内圧が大気圧以外の場合を考えます。内部が水などのユーティリティではなくプロセス流体を圧送する場合や飽和水を圧送する場合などがこの場合に当たります。
仮に0.5MPaGの飽和水をその飽和圧力のタンクから圧送する場合を考えると次のようになります。この時、周囲の圧力、蒸気圧が変わりますが今回の場合は圧力と蒸気圧が釣り合う飽和状態としているため、それぞれが打消し合い、高さから圧力損失分を引いたものがNPSHaとなります。
今回の条件ではNPSHaは2mと分かります。
まとめ
- NPSHとはどの程度の流入水頭を確保できるかを示す指標。
- 単位はm(メートル)で表される。
- ポンプを選定する際はどの程度のNPSHaを確保できるかが重要。
考え方自体はシンプルですが、横文字が多いので難しい印象を持たれることも多く最初は理解するのに苦労します。
是非、想定される運転パターンを洗い出し、どの運転パターンが最もNPSHaが小さくなるのかを考えながら計算をしてみてください。