ボイラーや加熱炉など、バーナで燃料を燃焼させることで熱を発生させる装置で省エネルギーを考える場合、バーナに供給する空気の量は非常に重要な要素になります。
この時に出てくるのが「空気比」という考え方です。ここでは、空気比とは何か、計算方法、調整方法について解説したいと思います。
空気比とは?
空気比は燃料を燃焼させるのに必要な理論空気量に対し、実際に供給する空気の割合のことで式で表すと次のようになります。
理論上、空気比1で運転できればエネルギーの無駄がなく理想的ですが、実際には全ての空気が燃焼に使われることはないので理論値よりも過剰に供給されます。
適正な値に対し、空気比が大きくずれると次のような弊害があります。
- 空気が過剰:排ガスによる熱損失が増加してボイラー効率が低下。
- 空気が不足:燃料の不完全燃焼により黒煙(すす)などが発生。
環境汚染を防止するという観点から、黒煙を発生させると事業を継続できなくなる可能性があるため、ボイラー効率を多少下げてでも空気比は高めに設定するのが一般的です。
多くの工場で最もエネルギーを使用するボイラーでの効率は工場のランニングコストに大きく影響するため、空気比の管理は非常に重要視されており、省エネ法でも数値基準が決められています。
空気と混合しやすい燃料であればあるほど空気比は小さくできるため、固体燃料>液体燃料>気体燃料の順に基準空気比は小さくなります。これは、気体燃料を使用することでボイラー効率が向上するといわれている理由の一つです。
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空気比の計算方法
実際の供給空気量から空気比は次の手順で計算することが出来ます。
- 燃料の燃焼式を立てて必要酸素量を計算する。
- 空気の酸素濃度から理論空気量を逆算する。
- 実際に供給している空気量を理論空気量で割る。
簡単のために今回は1molのメタンを完全燃焼させるとして、計算してみたいと思います。
燃料の燃焼式を立てて必要酸素量を計算する
まず、メタン(CH4:分子量44)の燃焼式は次のようになります。
$$CH_4+2O_2 → CO_2+2H_2O$$
つまり、メタン1molを完全燃焼させるためには酸素が2mol必要で、二酸化炭素が1mol、水が2mol発生するということが分かります。
標準状態でのメタン1molの体積は22.4Lなので、必要な酸素量は44.8NL(ノルマルリットル)になります。
※ 標準状態は温度0℃、大気圧1013hPa、相対湿度0%という基準状態で測定した値
空気の酸素濃度から理論空気量を逆算する
次に、先ほど計算した酸素を供給するのにどの程度の空気が必要かを計算します。
地球の大気の組成は窒素78%、酸素21%、アルゴン0.93%、その他(二酸化炭素など)なので、酸素濃度を分子に取ると必要な空気量の算出が出来ます。
$$必要空気量=\frac{必要酸素量}{酸素濃度}$$
よって必要空気量の式は次のようになります。
$$\frac{44.8}{0.21}≒213[NL]$$
これにより、メタン1mol 22.4NLを完全燃焼させるためには理論上空気が213NL必要になるということが分かります。
実際に供給している空気量を理論空気量で割る
ここで、仮に実際に通風機で供給している空気量が300NLだとすると、理論空気量で割ることにより空気比を計算できます。
$$空気比=\frac{300}{213}≒1.4$$
この条件では空気比は1.4になります。
実際にはこのような計算をいくつか行い、供給する燃料の組成から必要な理論空気量を算出するという流れになります。
空気比の適正値は?
空気比は黒煙が発生しない適正な値で運転するのが理想的です。
では、適正な値はどうやって決めるのでしょうか?
適正な空気比はボイラーの形状や供給する燃料によって変わるため、ボイラーメーカーが各条件でどの値が適正かを経験的に定めていることが多いです(例:型式○○ 燃料:LNG 想定空気比1.2など)。
また、実際にはボイラーの経年劣化などによっても適正な空気比は変わります。
そのため、一般的には排ガスの酸素濃度などを測定しながら黒煙が出ない程度に供給する空気の量を変動させ、結果的にどの程度の空気比で運転することになったかを計算するというが主流です。
空気比を適正に管理するというのは、ボイラーを定期的にメンテナンスすることにより空気比が納入時に比べて異常になっていないかを管理するという意味合いが強いです。
空気比の制御方法
供給する空気の量は主に次の2つの方法で制御します。
- ダンパーの開度調整
- 通風機のインバータ制御
通風機の動力をあまり必要としない小型のボイラーの場合はダンパーの開度調整、大型のボイラーの場合は通風機の回転数を制御するインバータ制御を利用する場合が多いです。
これは、インバータ制御を導入するコストと得られるメリットを考えたときに大型の方が効果が大きいからです。
これらを制御して、排ガスの酸素濃度が一定値以下にならないように供給する空気量を調整し、供給した燃料と理論空気量の値から空気比を算出します。
空気比が異常に上がり、ボイラー効率が著しく落ちた場合はセンサーや機器の故障などが考えられるので、ボイラーメーカーにメンテナンスを依頼した方が得策です。
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5. まとめ
- 空気比は理論空気量に対して供給する空気の割合。
- 理論空気比は燃料の燃焼式から計算できる。
- 空気比の基準はボイラーごとに決まっている。
- 供給する空気量は排ガスの酸素濃度などによって決められる。
- 空気比が異常になった際には機器の故障などが考えられる。
空気比は日々のメンテナンスにおいて非常に重要な指標の一つです。是非、何を表す値なのかを理解しておきましょう。